有希の冒険 ヌルデ村の戦い(6)
文字数 1,506文字
「城兼さんは、どうしろって云うのかな?」
腕輪は既に外している。不意打ちも罠も彼女にはもう通用しない。敵の配置も分かる。敵の戦力も具体的な処までは分かりはしないが、大体の強さなら理解できる。この程度の相手なら、基本的に負けることはない。
城兼は、「1人で行って、ハンター全員やっつけて来い」と言っていた。面倒な事この上ないが、有希ならば決して不可能な話ではない。 ま、相手を殺さないと云う条件が無ければの話だが……。
敵が1人、茂みから飛び出して、有希に不意打ちを掛けようとしてきた。もう有希は、苦笑するしかない。その敵が茂みにいることは、随分前から感じていたし、ほんの少しの脅威もしっかりと感じていた。
有希は彼の手をさっと握り、握手する形で敵の生気を少し拝借した。有希も生気を吸うことに慣れてきて、その欲求を大分制御できる様になっている……。
「全員、眠らせろって言うのかなぁ? 面倒臭いなぁ……」
有希に不意打ちをかけた男は、生きてはいたが、力が抜けて腰が立たず、そこにペタリと座り込んでしまう。
その時である。
有希は凶悪なウィシュヌ光臨教団の存在を、強い脅威として感じ取った。
まだ熟練度の足りない有希には、相手が何者かまで分かりはしない。だが、集団でここ、妖怪層に現れた強敵がいるのは、彼女も感じる取ることが出来た。
有希の目付きは鋭くなり、それまで無軌道に妖怪ハンターを倒すべく徘徊していたのを
この集団は倒すべき敵だ!
有希は、この集団を撃つべく、脅威の発生源へと向かった。
その頃、敵の襲撃が一向に始まって来ないヌルデ村の中央広場では、残ったオサキの戦士数人が、次の作戦行動を
その中の1人、捉えられていた例の狐の少年レナルドは、目に涙を溜め、噛み付かん勢いで、城兼に食って掛かっている。
「あなたは彼女を、たった1人で行かせたのですか? 100人もの敵の中に……。自分はここに残ったと云うのに……。
彼女が殺されさえすれば、全てが解決するとでも思ったのですか?!」
真久良も矢張り、城兼の行動に納得が行かないらしい。
「私も訊きたいですね……。
私が1人で行くと言うのを止めたあなたが、何故、彼女を1人で行かせたのか? 是非、説明して頂きたい」
しかし、城兼は、2人の抗議をまともに取り合う気などはない。
「お前さんたちにゃ分からんだろうが、あのお嬢さんは、お前さんたちより、よっぽど強いさね。本人が自覚していないだけで、闘いに慣れてくりゃ、俺達が全員で掛かっても勝てんだろうなぁ……。
と言うより、早々に覚醒して貰わんと、困ってしまうんだがな……」
城兼は余分なことを言ってしまったと無理矢理に話題を変える。
「まぁ、そんなことより、少し休憩でもして、稲荷寿しでも食わんか? 『腹が減っては戦は出来ぬ』って言うじゃないか。ヤマハゼの村から持ってきたんだ」
城兼は背中に結んであった包を降ろすと、それを開き、そこから竹の皮で包んだ稲荷寿しを取り出す。しかし、その稲荷寿しには、真久良、レナルドだけでなく、他のオサキ狐も、城兼程には食指が動かない様だった。
そんなとぼけた城兼であったが、心の中では彼ら同様に……、いや、彼ら以上に有希を心配していた……。
「ちょっと、あの連中の相手はやばいかな? 僕はここを離れられないし、誰か、奴らの脅威を検知して、有希を助けに行ってはくれないかなぁ?」
彼の意思は心の中でそう願い、辺りを見回したのだった。