悪魔たちの休日(2)

文字数 1,648文字

 京浜東北線の車内に座っていても、2人の思い出話は尽きない。

「耀子。耀子は今でも悪魔やっているの?」
「まさか、もうお婆ちゃんよ。これじゃ悪魔じゃなくて山姥になっちゃうもの……」
「山姥か、それは言い過ぎ。せいぜい美魔女ってとこかな」
「な訳ないじゃん。早苗こそどうしたのよ? そんな格好して……。若い男の子でもナンパして、(もてあそ)ぼうって思ってるの?」
「ははは。一応、これでも外交官夫人様だからね~。恰好(かっこう)だけは気ぃ使うのよ。中身は変わんないんだけどね」
「脱いだら凄いって?」
「そう、凄い中年太り……。って、そんなこと言わすな~」
「ギャハハハ……」
 2人は女子高生の頃に戻った様に、人目も(はばか)らず高笑いをあげた。勿論、早苗は、少し細めだが、スタイルも良く、決して中年太りには見えない。

「美魔女って言えば、沼藺(ぬい)ちゃんなんて酷いよ、今でも女子大生レベルだからね~」
沼藺(ぬい)? 誰だっけ?」
 早苗は怪訝そうな表情を浮かべる。
 そう言えば……、
 妖狐である沼藺(ぬい)が高校を去る時、彼ら兄妹を除いた全ての人たちから、彼女自身に関する全ての記憶を消し去って行ったことを耀子は思い出した。そう……。高校時代、いつも一緒に過ごした3人のうちの1人、早苗すらも、彼女のことを全く覚えていないのだ。

「うん、何でもない。私の勘違い……」
「そういえば……。あ、いいや……」
「どうしたの?」
 早苗は話し(づら)そうにしていたが、途中で言葉を切るのも(いや)らしいと思い、意を決して先程の質問をぶつけることにした。
「兄貴……、鉄男君はその後……、見つかったの?」
「あ、テツ? そうか、早苗ちゃんは知らないんだ。ご免、ご免。気使わせちゃったね。あの馬鹿は見つかったよ。それも、事もあろうか潜伏先で彼女をこしらえて、今では奥さんと娘の3人で、幸せに暮らしているよ」
「良かった……。彼とも逢いたいな。結構いい男だったし、彼女がいなければ、あたしが恋人に立候補しても良かったんだけどね」
「あんなのと付き合っていたら、外交官夫人なんて羨ましい身分にはなれないよ。
 それに四六時中、あいつの浮気に悩まされるからね」
「ははは、耀子は相変わらず辛辣だなぁ。でも、浮気性はどっちかって云うと、耀子の方じゃないのかなぁ?」
 そう言ってから、早苗は少し眉間に皺を寄せて首を傾けた。
「あれ? でも……、そう言えば、鉄男君って、誰と付き合ってたんだっけ?」

 耀子は表情を硬くした。そして、少し間をおいてから、耀子は年のせいと悩んでいる早苗に言葉をかけた。
「早苗、私は早苗が私を覚えていてくれて本当に嬉しかった。早苗はどう?」
「え? そんなの決まっているじゃん」
「そうだよね。私たち中高の間、ずっと一緒だったものね」
「いろんなことがあったし、耀子とは、悪い思い出なんて殆ど無かったけど……。悪い思い出だって、悲しい出来事だって、私の大切な青春の1頁だぞ。そう簡単に忘れたくはないじゃん。
 ま、年喰ってからのことは、結構よく忘れるんだけどね……」
「だよね……」
 耀子はそう言うと、バッグから小さなお守り袋を取り出し、その中身を出した。それは枯葉の様な色をした小さな人型だった。
「う~ん。言った(そば)から否定する様で何だけど……。それ、覚えてないわ……」
 早苗は耀子の取り出した物を見て、済まなそうに謝った。
「違う、違う。これは早苗との思い出の品じゃないよ。ハハハハハ……」
 耀子は笑ってそれを窓の外に飛ばす。だがそれは、ゴミになったりもせず、幻の様に空気に溶けて消えて行った。

「何? 紛らわしいことして。今日は耀子の奢りね。お~し、あんみつ三杯は食べるぞ~! それも白玉つきで!!」
「いいわよ。でも、どう? いっその事、温泉にでも泊まりに行かない? 勿論、私の奢りで……」
「耀子ぉ。流石に突然の泊りがけは、あたしでも無理だよぉ」
「想像の世界でよ。実際は1分も経たないから大丈夫。安心して!」
「なら良いよ。でも、現実のあんみつの方も、ちゃんと奢って貰うからね」
 耀子と早苗は、また笑いあった。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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