ミメの伝説 現在(いま)を超える者(7)
文字数 1,567文字
「それだけではないわ。今もスペースレビアタンは、自ら分裂を行っているの……。
自分の仲間を2つに裂いて、2体に分裂させて行くのよ。そのうち、元の数まで復元してしまうわ……」
「何だと! そんな馬鹿な! これまでの苦労が無になってしまうと言うのか?!」
「そんな化け物、倒せないわ……」
有希の言葉に、盈と耀子は絶望の声をあげる。純一少年を始め、AIDSクルーに至っては、全員もう声も出ない。
「いずれにしても、スペースレビアタンは零にしないと勝ったとは言えないの……」
有希は重ねてそう言う。だが……、
「大丈夫、策はある……。
それに奴ら、再生はしてるけど食料は補給していないでしょう? つまり、再生の為に自らの身体の一部を分解してるのよ。だから、単純に元の姿に戻る訳ではないわ。簡単に言うと、小さくなるってことね。
そうなれば『極光乱舞』も効きやすくなるから、決して今迄の闘いが無駄になった訳じゃないわ。
それより、一刻も早く呪文を回復してね。私たちには時間が無いのよ」
「分かった。鉄男、耀子、寝るぞ。エスナウ、時間が来たら起こしてくれ。5時間も寝れば十分だろう……」
蒲田隊長がそれを聞いて、三悪魔の案内を買って出た。
「仮眠室へは私が案内しましょう。そこでゆっくりとお休みになってください。
その間に我々は、あの化け物に銛を打って、少しばかり土星の方へと引き戻して置きますよ……」
そう言うと、蒲田隊長は鵜ノ木隊員にハンドサインでその指示を出す。そして三悪魔は、蒲田隊長に案内され、仮眠室へと下がって行った……。
1時間後には牽引の準備作業も終わり、ジズを自動操縦に変え、AIDSクルーも仮眠室へと戻って行く。艦橋に残っているのは、宿直の沼部隊員と有希だけ……。
「君はどうするんだ? エスナウさん」
沼部隊員が有希にそう尋ねた。
沼部にしてみれば、この高校生くらいの少女が、アルウェンの替わりに作戦指揮を行っているのが不思議でならない。
「私は何処かに座らせて頂ければ、それで結構です」
「いっそのこと、君も仮眠室に行ったらどうだい? ここに居ても退屈だろう?」
「盈さんを、5時間後に起こすと約束しました。なのに、私が寝てしまったら、盈さん、きっと怒っちゃいます。だから、私、我慢して、ここで起きています」
沼部隊員は「やっぱり、普通の女の子なのかなぁ。『我慢する』なんて言ったら、眠りたいって本当のことが、分かっちゃうじゃないか」と思う。すると、有希はそれに気が付いて、少々言い訳をして来た。
「すみません、だって、何もしない5時間は退屈ですよ。やっぱり……」
そして……、
「ええ、私、相手の考えていることが分かるのです。でも別に、盗み聞きがしたかった訳ではないですよ」とも追加する。
沼部隊員は頭を掻いて、それ以上、彼女に何かを尋ねるのは止めにした。相手は少女であっても大悪魔である。常人の出る幕ではないらしい……。
5時間後、矢張り興奮が治まらないのか、有希が起こす前に、三悪魔はメインデッキに現れて来た……。
先ず盈、そして純一少年。
2人は取り敢えず、コーヒーを御馳走になる。そして最後に耀子だ。
耀子が現れたので、宿直の沼部隊員と一緒に補助操縦席に座っていた有希が、三悪魔の座るテーブル席の脇へとやって来る。
「早起きね、3人とも……。休養は充分取れたかしら?」
「いいえ、正直興奮して寝られなかったわ。でも、呪文は覚え直したから大丈夫よ。行きましょう」
有希の質問に、少し眠そうな耀子が答える。3人とも万全とは言えそうもないが、この状況ではそれで満足するしかないだろう。
「では行きますよ。私に近付いて……」
有希は『瞬間移動』の呪文を唱えた。
さあ、エスナウも加わった……。
ファージとの最後の闘いが、今始まる。