有希の冒険 最後の切り札(3)

文字数 1,348文字

 盈は有希に質問する。
「お前は、夜の道を怖いと思ったことが、一度でもあるか?」
「別に……」
「そうだろう。仮にお前が化け物に襲われたとしても、お前はそれを恐ろしいとは感じない。そりゃそうだ。お前が危なくなっても、いつもお前を守ってくれる強くて頼りになる父親が存在しているのだからな……。
 あいつは雰囲気は昼行灯だが、いざとなったら、お前のことを必死で守ると云う奴だ」
「……」
「とは言っても、お前も思春期の少女だ。精神的な不安などもあるだろう。だが、これについても、いつもお前のことを考えてくれている優しい母親が傍にいた。精神的な不安からも、お前は美菜といることで常に守られていたのだ」
「……」
「その恵まれた環境に育ったが為に、お前は、どんな時でも両親を頼って生きる癖がついてしまった……」

「いいじゃん、それ位……。
 パパとママがいるからって、私だけが特別に甘やかされてる訳じゃないもん。
 そりゃ、そうじゃない子もいるかも知れないけど、私にはパパとママがいるんだから、2人に優しくされたっていいじゃない!」
「ああ、親に愛されるのは子どもの権利だ。お前が特別我儘だと言っているのではない。
 だがな、今回の場合は、それが足枷になるのだ……。
 お前は父に似て闘いを好まない。闘わずに済ませられるものなら闘わないし、他の奴が闘うのであれば、面倒臭がって人を押し退けて自分で闘おうなどは決してしない。
 お前は、そう云う性格なのだ……」
 有希もこれには、ぐうの音もでない。

「だから、私はお前の父の感知できない妖怪層でお前を襲わせた……。
 しかし、お前は覚醒していなくとも充分に強い。あんな小物妖怪では、お前が本気で闘う所まで行きはしなかった。
 お前に本気を出させる相手は、結局、私たち3人以外にはあり得んのだ。
 それと、お前の父は、お前の敵でなければならない。敵であることを明確にして置かねば、お前は直ぐ奴に頼ろうとするからな。
 だから、お前が妖怪層に移動するのを確認し、お前の父と叔母を呼びつけて、協力を要請したのだ……」

「盈さん……、どうしてパパに頼っちゃいけないの? どうして私が闘わなければいけないの? どうして、みんな死ななきゃいけないの? ママは人間だよ。全然関係ないじゃない。どうしてママを殺さなければいけなかったの?」
「お前と闘う為に、私には若い肉体が必要だったからな……。美菜は若いとは言い難いが、まだまだ鍛えらた肉体だ。充分、使うことが出来る」
「ママじゃなくたって、いいじゃない!」
「ああ、そうだな……。
 この前、お前の家に遊びに来た、矢口ナナだったら良かったかな? それとも、お前の学校の同級生だったら良かったか? あるいは、友達の母親だったら良かったのか? お前の親じゃないからな。お前の嫌いな女教師の方が良いか? (つい)でに死んでくれて、嬉しいしな……。知っている人間が駄目なら、通りすがりの女性なら良いのかな? そいつが死んで、誰が悲しもうが、お前には関係のないことだしな……」
「そう云うこと、言っているんじゃない!」
「いや、そう云うことを、お前は言っているのだ!」
「……」
「この闘いは、私が死のうと、お前の両親が死のうが、例え、お前の精神が崩壊しようが、やり遂げなければならないのだ!」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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