有希の冒険 オサキの里(3)

文字数 1,641文字

 一方、狐侍が語った次の話で、有希には政木狐の意図が理解できた。

「『明日の朝まで、政木屋敷内に入ってはなりません。それ迄、オサキの里にでも寄られ、今宵は喜津根温泉に逗留なされるが良いでしょう……』 その様に、大刀自様は仰有っておられます」

「え~、おばあ様も随分じゃない? 有希のパパに、お姉ちゃんが意地悪されたことへの仕返しかな……?」
「え、なんで?」
 風花が政木狐の指示に対し、思わず不満を口にする。だが、有希にはその意図がよく分からない。その表情を見て、風花は有希にその理由(わけ)を説明した。
「喜津根温泉の方はいいけど、オサキの里は絶対嫌だわ。あそこの人たち、政木家に恨みを持っているんだもん……」
「私、オサキの里って是非行ってみたい!」

 風花は行きたくない様だったが、有希はオサキの里に行きたいし、無論、政木狐が意地悪だ……などとは思っていない。

 風花には政木狐の意図が分からない様だが、有希には……、
「折角、こちらに来られたのですから、観光でもなされたら良いでしょう……。
 生気が不足するといけません。腕輪をお貸ししますね。では、お楽しみなさい……」
 そう政木の大刀自が言っているとしか、思えないのである。

 有希にとって、腕輪は実にありがたい贈り物であった……。
 有希は非戦闘状態でも『危険察知』と『読心』の2つの魔力が自動発動している。つまり生気が勝手に減って行っているのだ。
 人間の血を半分受け継いでいる有希は、食事を摂ることで自己の人間部分から生気を生成することが出来る。だが、それでも、ここ妖怪層では、簡単に生気の補充することは出来ないであろう。となると、長い滞在をすることは、有希には難しいことになる。
 しかし、腕輪を着けていれば大丈夫。その間、生気は消費されない。
 それに、長いこと魔力なしで生活してきた有希は、腕輪で魔力を封じられても、それ程、違和感を感じはしないだろう。
 そして、仮に闘いになったとしても、魔法で戦えば良いのである。昨日、呪文を思い出してきたばかりだ。人間の記憶力レベルに戻っても、有希は十分それを覚えている。
 ならば、それで戦えない事もないし、いざとなったら腕輪を外せば良いのだ。有希には何の不便もない。

「でも、なんで有希ちゃんは、オサキの里に行きたいの? あそこには何も無いわよ」
 沼藺(ぬい)の質問に、有希は笑って答える。
「真久良さんの故郷だもの。パパの妹の耀子叔母さんも『オサキの里は良い処だ』って言っていたわ……」

 沼藺(ぬい)は、いよいよ分からなくなってきた。
「この()は、妖怪の存在を知っているの? この()の叔母は、妖怪層に来たことがあると言うの……?」
 有希は心を読んだ訳ではないが、沼藺(ぬい)の表情から、彼女が何を思っているのか有希にも理解できた。
「耀子叔母さんは、オサキ一党と和解の為にそこに行ったそうなの。そこで素朴な歓迎を受けてお互いの(わだかま)りも解けたって……」 
 風花も有希に問う。
「有希、真久良って誰? そう言えばあそこの棟梁って、人間の時、真久良って名乗っていなかった……?」
 有希は黙って頷いた。風花は続けて……、
「有希は、あいつと知り合いなの?」
「うん。子供の頃、少しの時間ずつだけど良く遊んで貰った。真久良さんって……、
『私はね、子供の相手をする為に居るのでは無いですよ。分かっていますか……?』
 なんて言ってから、結局いつも遊んでくれるのよ……」

 風花と沼藺(ぬい)は、有希の口まねを聞いて、思わず吹き出してしまった。将にあの棟梁が言いそうな台詞じゃないか……。

 沼藺(ぬい)は、その有希の笑顔から、彼女はオサキの棟梁と決して悪い関係ではないことを理解し、疑問はさておき、彼女の希望を叶えてあげることにした。そして、その段取りをふたりに伝える。
「分かったわ。じゃ、風花はこの者たちと城に帰ってね。私は有希ちゃんをオサキの里に送ってから帰るわ。有希ちゃんの迎えは、2時間後くらいでいいかしらね?」

 沼藺(ぬい)の提案に、有希も風花も了解し、コクリと頷くのであった。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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