有希の冒険 ヌルデ村の戦い(11)

文字数 1,874文字

 レナルドは道を急いだ。
 彼はその新たな脅威を明確に感じている。有希だけでは危ない。最悪、彼が『瞬間移動』の魔法を使って、宇宙空間まで彼自身ごとその脅威を運ぶ心算だった……。

 だが、レナルドが敵の作戦司令室に飛びこみ、有希の元に辿り着いた時には、もう彼らがすることは、何も残されてはいなかったのである。

「来てくれたの? でも心配いらないわ。この黒い玉を、宇宙の彼方に飛ばして爆発させれば、すべて解決よ」
「黒炎破弾……?」

 そこに在ったのは、有希の制御下にあった小さな黒い玉。レナルドには何が起こっていたのか分からない。レナルドの中の彼も、直ぐには理解できなかった。
 有希は『黒炎破弾』と呼ばれる炎系の最大呪文を発動させていたのである。

 この魔法は、自分の制御できる空間の歪み、つまりブラックホールを発生させ、そこに物質であろうが、エネルギー体であろうが、何でも吸収させてしまうもので、最後に空間の歪みを解放し、吸収した全ての物を光熱エネルギー化して大爆発を起こさせると云う恐ろしい攻撃呪文だった。
 有希はこれを使い、ジザニの核融合を爆発直前に吸収していたのである。

 有希はレナルドと一緒に、その民家から外に出た。そして、彼を見てにっこりと微笑むと、ボールを宇宙に投げ上げる様に、有希は両手を空へと差し上げた。
 すると、それに合わせるように、黒い玉は、空へ空へと舞い上がっていく。
「もう、大丈夫よ。今夜は、きっと空に明るい超新星が輝くわ……」
 レナルドは、心の中に何が起こったのかを尋ねてみた。しかし、彼の心の中には既に誰も住んでは居らず、それに答えてくれることはもうなかったのである。

 一方、その頃、人間層では、ある惨劇が起ころうとしていた……。

 場所はジザニの自宅。それは妖怪層にあるあの古民家と同じ形をした、一階建てのログハクス風木造建築であった。違うのは、それが森の中でなく、ごく普通の住宅地に並んで建っていることであろうか……。
 そこへと、命からがら逃げ戻ったジザニは、顔を上げ、目の前に1人の少女が立っていることに気が付いた。

沼藺(ぬい)様、こんな処に、一体どの様なご用件ですかな?」
「勿論、オサキの里に理由(わけ)もなく侵略した、あなたを処刑する為よ……」
「そ、そんな。あなたとオサキ狐は宿敵でしょう? へへへ、見逃してくださいよ……」
「駄目よ……。それに勘違いしている様だけど、私、あなたの知っている沼藺(ぬい)ちゃんじゃなくてよ……」
「え?」
 沼藺(ぬい)と見えたその少女は、左手を水平に払った。それと同時に手首から伸びたロープがジザニの首に絡みつく。
「このロープは一体?」
「これはね、フリンジって言うの。ね、この時空の沼藺(ぬい)ちゃんじゃないでしょ? それに、実は、中身も違うのよ……」
「あなたは一体?」
 少女は有無も言わさず、フリンジを手繰って敵を引き寄せた。そして、前のめりによろけたジザニの首を一刀のもとに刎ね落とす。

「私の可愛い姪っ子を、随分と虐めてくれたわね。その報いよ……」
 少女はそう言うと、彼女の愛刀である逆反りの斬首刀『布津御魂剣(ふつみたまのつるぎ)』を一振りして血糊を落とすと、さらりと鞘へ納めたのである。

 さて……、
 その約1時間後、この時空の沼藺(ぬい)が有希を迎えに来た時、有希は真久良をはじめとするオサキの村人と別れの挨拶を交わしていた。
 沼藺(ぬい)が近づいて見ると、その有希は、何故かオサキの日常服である貫頭衣を身に纏っている。そして、その下には下着しか着けていない半裸の姿だった。

 沼藺(ぬい)は真久良に食って掛かる。
「有希ちゃんに何もしなかったでしょうね。もし何かしてたら、おばあ様の意向なしでも、私はあなた方を殲滅させますよ!」
「あなたごときに……、そんなこと、出来ますかねぇ?
 私としては、あなたの言う特別な何かを、感謝を込めて、是非、このお嬢さんにお願いさせて頂きたい処ですけどね……。そんな抜け駆けをしようものなら、他の村人、特にあそこの少年から命を狙われそうです。
 そう云う訳で、残念ながら、何もしていませんよ」
 多少問題のある言い回しであったが、真久良なりの敬意の表し方だと解して、有希は笑って済ますことにした。

「本当よ、沼藺(ぬい)さん」
 そう言った有希の手は、手首全体が赤く血に染まっている。
「どうしたの、その手は?」
「別に怪我してる訳ではないわ。これは別の人間の血……。私の宿命なの。生きている人間の心臓を(えぐ)り取っただけ……」
「え?」
 沼藺(ぬい)は、その後の言葉を口にすることが出来なかった……。

 そして、沼藺(ぬい)が何を思ったのかも、腕輪を戻している有希には分かる由もない。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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