有希の冒険 オサキの里(1)
文字数 1,873文字
勿論、
そして、今回は人間を移層すると云う特殊な状況である。出来れば、人間である有希の移層を他の妖怪には見られたくなかった。
この為、今回の移層ポイントについて、
この様な理由も在り、有希たち3人は、その移層ポイントを抜けた後、政木屋敷までの数キロを徒歩で移動していた……。
風花は、政木屋敷までの道すがら、純一への不満をずっと漏らしている。正確には、言葉として口に出していた訳ではないのだが、有希にはそれがハッキリ聞こえていた。
「有希ちゃんのお父さんを悪く言いたくはないんだけど、有希ちゃんのお父さんってあんまりじゃない?
なんか、妖怪の力を馬鹿にしてるって云うのか。折角、お姉ちゃんが人間の為の闘いだから協力してくれって頼んでるのに、有希ちゃんを寄越すなんて……。
そりゃ有希ちゃんは、人間としては不思議な力を持っているわよ。でもね、妖怪であの程度できる奴なんてざらだよ。
本当に何を考えているのかしら? 有希ちゃんのこと心配じゃないのかな……?」
「パパは有希のことを心配しているよ。
でも、一人立ちしなきゃいけないんだって。それに、
「え?」
風花は、自分の心の中の台詞に答えた有希に驚きを覚えた。そして今度は口から言葉を発して有希に尋ねる。
「有希ちゃん。今、私の言葉に答えたの?」
「うん。私、人の心の中の声を聴くことが出来るの……」
それを聞いて、
「そう云うことなのね……」
悪口を聞かれてしまった風花が、やけくそ気味に純一への文句を声に出して言い直す。
「それにしても……、お姉ちゃんと闘おうなんて、自信過剰過ぎない?」
「パパ、こんなこと言っていた……。
あと……。あ、これは言えない。特にママには言えない……」
有希は、心の声が伝わらないと云うことは、決して悪いことではないと、その時しみじみと理解することが出来た。
「有希ちゃん、今私が考えたこと分かる?」
「うん……。でも、
「無いわよ。今考えたことは嘘。有希ちゃんは、心の奥底を読める訳ではないのね」
「うん。私は、人が心の中で言ったことを聴くことが出来るだけ……」
「だったら、あなたの能力は秘密にしていた方がいいわ。人は聞かれていないと思うから心の中で本当のことを言う。もし、有希ちゃんが、心の声を聴けることが分かったら、今の私みたいに嘘を考えるわ」
今度は風花が有希の前にまわって、後ろ向きに歩きながら有希に話し始める。
「でも、有希ちゃん。あ、同い年位だから有希って呼んでいい? 私のことも風花って呼んでいいからさ」
有希が頷くと、風花は続けて……、
「有希って、なんか不思議な力を一杯持っているよね? 魔女って言うのかな?
それに心を読めるってことは、相手の考えている攻撃も全部分かるんでしょ? それ、無敵なんじゃない?」
有希は少しはにかんで、それに答えた。
「そんなことないよ。あんまり遠くにいると、その人の心の声は届かないんだ。
今は2メートル位が限界かな……?
それに、正面にいる一番近い人の声しか聴けないんだ……。でも、四方から全部聞こえてきても、ごちゃ混ぜになって、分からなくなるだろうけどね……」
「あはは。じゃ、内緒の時は少し離れて歩こうかな。そうしないと、有希には筒抜けだもんね」
「そうしてくれると嬉しいかな……。あんまり聞きたくない声もあるし……」
しかし、聞こえたのか聞こえていないのか、それについて、有希は何も言いはしなかったのであった。