有希の冒険 オサキの里(2)

文字数 1,603文字

 政木屋敷に続く獣道の途中、沼藺(ぬい)が『あと1キロくらい……』と有希に話してから数分後、2名の侍が3人の方に向かって走って来た。唯、侍と言っても、首から上は狐の頭が乗っている。有希はその異様な面相に少し警戒し、思わず身構えた。

 だが、狐侍たちは、沼藺(ぬい)たちの前に来ると片膝をついて礼を取る。どうやら、敵ではない様だ……。

沼藺(ぬい)様、お帰りなさいませ」
「出迎え、ご苦労様です。こんなところまで、態々すみません。あなたたちにも手間を取らせ、本当に申し訳ないと思っています」
「いえ、滅相もございません」
「で、大刀自様は既に私たちの帰還をご存知ですね。私は大刀自様に、この娘の目通りを願いたいのですが……」
「そのことで、政木様よりご伝言です。『その娘、このまま政木屋敷に入れること相成りません。屋敷外にて、この金物の腕輪を付け、謁見は明日に……』との仰せです」
 もう1人の狐侍が、風花にパスワード入力機能付きの腕輪を渡す。

「何これ?」
「私の能力を封じる魔封環ですね……」
 風花の疑問に対し、先ず有希が答え、狐侍がそれに補足する。
「屋敷内に入る者は、佩刀を取り上げるのが御定法。この娘の場合、悪魔能力と云う武器を、この腕輪で取り上げなければ、屋敷内に入れることなりません」

「え~、おばあ様、何で今日に限って、そんな堅苦しいこと言うの?」
「私にも分からない……。大刀自様は、有希ちゃんを恐れているのかも……」
 そう言ったものの、沼藺(ぬい)は正直、有希がそれ程のものとは思えない。とは言え、他の理由も見当たらなかった。
 一方、有希は別の疑問を持っている。
「でも……、政木様って、なんで腕輪を持っているのかしら?」
「そりぁ、おばあ様は、何でもご存知だもの。何でも手に入れられるわよ……」

 有希の疑問の真意は、大悪魔でない風花には分かりはしない……。

 この腕輪は、

を封じる為の物だ。だとすると、この世界に大悪魔が存在しなければ、全く意味の無い物である。
 そして、パスワード入力機能付きと云うことは、これは、外すことを前提にして造られた物であり、悪魔能力の封印よりも、悪魔の利益の為に用いられることの多い道具だ。

 有希はこう考えていくうち、より具体的に自分の疑問が整理されていく……。

 このテンキー入力機構付き魔封環は、古代人の技術で造られたものではない。この腕輪は、魔封環を造る古代の知識と、近代のデジタル技術を身に着けた、特定の

にしか造ることの出来ない代物なのだ。恐らく、

が装着してきたか、その仲間の大悪魔が装着して妖怪層(ここ)に来たものに違いあるまい。
 そして、それを政木の大刀自が持っていると云うことは、政木の大刀自自身が、

と親交があって、この魔封環を譲り受けたか、あるいは持主の大悪魔から魔封環(これ)を奪い取ったか……、そのいずれかと云うことになる……。
 しかし、誰に装着させる為に……?

 それはそうと……、
 パスワード付きの腕輪は怖いものではない。有希はそれを風花から受け取ると、あっさりと左手首にそれを嵌めた。

「嵌めてから訊くのも何だけど、この腕輪のパスワードは?」
「それを言う訳など、ないではありませんか。お嬢さん……」
 有希は腕輪を渡した狐の心から、パスワードを聞きだした。人は質問されると、口では答えなくとも、頭の中で答えてしまうものなのである。有希はそれを利用した。
 まぁ、分からなかったら、外す時、呪文でそれを破壊するだけだったのだが……。

 沼藺(ぬい)も有希の満足そうな表情で、有希の質問の意図を理解した。
 沼藺(ぬい)にとって分からないのは、寧ろ政木狐の意図の方だ……。
 政木狐が有希の能力を知らない訳がない。
 有希のこの能力がある以上、この腕輪を渡すのであれば、パスワードを知る者を遣わしても意味はない。有希には筒抜けになってしまうからだ。
 ならば何故、態々、政木狐はその様な者を遣わしたのか……?
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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