有希の冒険 オサキの里(2)
文字数 1,603文字
だが、狐侍たちは、
「
「出迎え、ご苦労様です。こんなところまで、態々すみません。あなたたちにも手間を取らせ、本当に申し訳ないと思っています」
「いえ、滅相もございません」
「で、大刀自様は既に私たちの帰還をご存知ですね。私は大刀自様に、この娘の目通りを願いたいのですが……」
「そのことで、政木様よりご伝言です。『その娘、このまま政木屋敷に入れること相成りません。屋敷外にて、この金物の腕輪を付け、謁見は明日に……』との仰せです」
もう1人の狐侍が、風花にパスワード入力機能付きの腕輪を渡す。
「何これ?」
「私の能力を封じる魔封環ですね……」
風花の疑問に対し、先ず有希が答え、狐侍がそれに補足する。
「屋敷内に入る者は、佩刀を取り上げるのが御定法。この娘の場合、悪魔能力と云う武器を、この腕輪で取り上げなければ、屋敷内に入れることなりません」
「え~、おばあ様、何で今日に限って、そんな堅苦しいこと言うの?」
「私にも分からない……。大刀自様は、有希ちゃんを恐れているのかも……」
そう言ったものの、
一方、有希は別の疑問を持っている。
「でも……、政木様って、なんで腕輪を持っているのかしら?」
「そりぁ、おばあ様は、何でもご存知だもの。何でも手に入れられるわよ……」
有希の疑問の真意は、大悪魔でない風花には分かりはしない……。
この腕輪は、
悪魔の能力
を封じる為の物だ。だとすると、この世界に大悪魔が存在しなければ、全く意味の無い物である。そして、パスワード入力機能付きと云うことは、これは、外すことを前提にして造られた物であり、悪魔能力の封印よりも、悪魔の利益の為に用いられることの多い道具だ。
有希はこう考えていくうち、より具体的に自分の疑問が整理されていく……。
このテンキー入力機構付き魔封環は、古代人の技術で造られたものではない。この腕輪は、魔封環を造る古代の知識と、近代のデジタル技術を身に着けた、特定の
ある大悪魔
にしか造ることの出来ない代物なのだ。恐らく、その大悪魔
が装着してきたか、その仲間の大悪魔が装着してそして、それを政木の大刀自が持っていると云うことは、政木の大刀自自身が、
あの大悪魔
と親交があって、この魔封環を譲り受けたか、あるいは持主の大悪魔からしかし、誰に装着させる為に……?
それはそうと……、
パスワード付きの腕輪は怖いものではない。有希はそれを風花から受け取ると、あっさりと左手首にそれを嵌めた。
「嵌めてから訊くのも何だけど、この腕輪のパスワードは?」
「それを言う訳など、ないではありませんか。お嬢さん……」
有希は腕輪を渡した狐の心から、パスワードを聞きだした。人は質問されると、口では答えなくとも、頭の中で答えてしまうものなのである。有希はそれを利用した。
まぁ、分からなかったら、外す時、呪文でそれを破壊するだけだったのだが……。
政木狐が有希の能力を知らない訳がない。
有希のこの能力がある以上、この腕輪を渡すのであれば、パスワードを知る者を遣わしても意味はない。有希には筒抜けになってしまうからだ。
ならば何故、態々、政木狐はその様な者を遣わしたのか……?