有希の冒険 父、叔母、そして母(3)
文字数 1,798文字
純一と
耀子は、それを確認すると、
我に返った有希が、倒れた純一の口に自分の顔を近付け呼吸の有無と、胸に耳を当て心臓の鼓動の有無を確かめる。
しかし、それらは何れも既に停止していた。純一は生気を全て失い、生命活動を停止してしまっていたのである。
「耀子叔母さん、なんで? パパは叔母さんの兄でしょ?」
「違うわ……」
「えっ?」
「彼は私の兄ではない……。彼のことを私はずっと兄と呼んでいたし、彼の方が年下に見えた間は弟と呼んでいたこともあった……。でも、実はその
耀子はフッと笑みを浮かべてから続ける。
「私と有希ちゃんのパパは、元々2人で1人の悪魔だったのよ……。
私たちは、両面四臂の両性共具の悪魔。それが2つの体に分かれ、それぞれ個別の人格を持って独立したに過ぎないの……。
だから、状況によっては、蜥蜴の尻尾みたいに片方の命を捨てて、もう一方を生き残るようにすることだってあるのよ。
今、彼は何の役にも立たなくなった。だから私は彼を吸収した。有希ちゃん、あなたを倒す為に……。私たち2人分の能力でね。
まぁ簡単に言うと……、
フフフ、弱くて使えないから、有希ちゃんのパパを殺したってことになるのかな?」
有希は立ち上がった。そして目の前に立つ叔母を睨みつける。
「耀子さん。じゃあ、耀子さんのことは、パパの仇とだけ考えればいいのね?」
「勿論よ……。有希ちゃんなんか、簡単に返り討ちにしてあげるわ……。
じゃあ先ず、そこの役立たずで間抜けなゴミを、さっさと片付けてくれるかな?」
「真久良さん……。パパの遺体を控え室に運んでくれませんか? それから、真久良さんもここから離れてください……」
有希は耀子から視線を逸らさず、真久良に指示を与える。真久良も一瞬何かを言いたそうな表情になるが、結局、黙って頷き、有希の言うことに従った。
「準備が出来たら始めるわよ。さあ、私の『高速移動』と『高熱掌打』のコンビネーションを打ち破ってみなさい!」
有希に準備など必要なかった。
有希は両手の指をサーベルに変え、耀子へと斬り掛かっていく。それは、父が得意とした『ツインサーベル』だ。
耀子はそれを『高速移動』で素早く避ける。これは耀子自身の得意技……。
元々『高速移動』は、月宮盈が作り出したもので、それを耀子が工夫に工夫を重ね改良し、盈よりも高速で攻撃できるまでに熟練、完成させた技だ。
有希も自分の慣性を減少させ、耀子の速度に対抗しようとする。しかし、耀子の速度に達する技術はない。あっさりと左に回られ、左肩に掌を押し当てられてしまう……。
「あちっ!」
「ほら、どうしたの? まだ温度が上がり切っていないからこの程度で済んだけど、掌が高温になってたら大火傷よ」
耀子は『高速移動』で移動と攻撃を速め、灼熱の掌と極冷の掌を繰り出してくる。
有希は相手の質量を増加させつつ、両手のサーベルを振り回し、耀子が間合いに入るのを何とか防いでいた。
しかし、耀子の質量を増やせと思った瞬間、彼女は有希の『重力質量変換』の射程から外れ、元の『高速移動』状態に戻してしまうのである。この為、有希は最初から耀子の質量を増加させて行かねばならず、結局『高速移動』攻撃から脱出する為の突破口を見い出すことが出来なかった。
耀子は、有希が懐に入って来たタイミングで、掌打以外の技を仕掛けて来た。拳の質量を増加させたボディへの右のアッパーパンチである。これは耀子の得意技で『反重力アッパー』と彼女が呼んでいるものだ。
有希はそれを食らいつつも、腹部の『皮膚硬化』で腹を突き破られるのだけは防ぐ。しかし、その威力は有希の体を宙に浮かび上がらせる程に強烈なものだった。
有希は目を見開き、口を思い切り窄める。それで何とか、有希はその技に耐えた。そうしないと、今朝食べたものを全て戻しそうな気がしたのである。
「あら、どうしたの……? 全然、防ぎきれていないわよ……」
左手で腹を抑え、何とか崩れるのを耐えた有希に、耀子は攻撃を一旦止め、腕を組み、そう笑って声を掛けた。