有希の冒険 父、叔母、そして母(5)

文字数 1,607文字

 瀕死の耀子は円形闘技場の中央に座り込み、有希に最後の言葉を伝える……。

「有希ちゃん、頑張ったね。さ、私を殺してパパの仇を取りなさい……」
「耀子叔母さん、どうして?」
 耀子はそれには答えず、別のことをカミングアウトする。
「そうそう。これを言っとかなくちゃね。
 あなたのパパと私が、1つの悪魔ってのは嘘よ。でも、実の兄妹でないと云うのは本当のことなの……。
 それでも、私たちは、兄妹よりも、恋人よりも、ずっと深く繋がっている……。
 修一は、あなたのパパの息子みたいなものだし、あなたは、私の娘と何も変わりがないの。だから、闘いたいとは思っていたけど、殺し合いはしたくなかったわ。多分、有希ちゃんもそうだとは思うけどね……。
 でもね、私たちには大悪魔としての責務と云うものがあるの……。だから、為すべきことをしなければならない……。
 さ、早く。私を倒しなさい……」
「でも……」
「この闘いで、有希ちゃんは魂を失ってしまうかも知れないわ。でも、これは逃げることの出来ない戦いなの……。
 私たちは、そんな戦いを有希ちゃんに強要してるのよ。だから、私もテツも、自分だけが生き残るなんて考えられない……。
 もし、万ヶ一だけど、そんなことになったら、例え世界が救われたとしても、私たちは、有希ちゃんと一緒に……」

 有希は耀子の真意を確かめようと、彼女の心の声を聴くことの出来る距離まで近付こうと何歩か歩き出した。
 しかし『読心』の能力の射程内に入る直前、有希は新たな脅威を検知し足を止める。
 その脅威の発生源とは、無論、ニスデールと云うフード付きマントを纏った、最後の宇宙人だ。
 その最後の宇宙人は闘技場の中へと跳び、そして、フワリと耀子の脇へと降り立つ。有希はこの相手の攻撃を警戒し、間合いを取る為、10メートルほど後方に跳躍した。

 マントの宇宙人は、有希の動きなど眼中に無いとばかりに無視し、耀子が純一に(おこな)った様に、彼女の懐から韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を取り出し、それを耀子の額に当てがう。
「全く……、ベラベラと……。役立たずどもめが……」
 マントの宇宙人がそう言って剣を外した時、耀子の輝きも、剣自身の輝きも、完全に無くなっていた……。
 有希はもう、耀子の生死を確認しようとはしなかった。唯、その変わり、マントの宇宙人にその理由を尋ねる。

「どうして、耀子叔母さんまで……」
「悪魔とは非情なものだ。役立たずは生きる資格が無い。お前も役立たずなら、さっさと死ね! それが嫌なら私に勝って、自分が悪魔を超える者であることを証明するのだな。半人間、半悪魔の有希!」
 宇宙人は、そのフードごと纏ったマントを取り去った。しかし、マントの宇宙人は有希が想像していた相手、月宮盈の姿をしてはいなかった……。
 それは、なんと、有希を一番愛してくれている女性。彼女の母親、新田美菜の姿をしていたのである……。

「マ、ママ?」
「違うな、有希。私はお前のママではない。私は月氏耀だ……」
「でも……」
「耀子たちと違って、月宮盈は元々人間の身体。流石にこの歳になると格闘は辛い。だから、手近にあった女の肉体を借りたのだ」
「そんな……。
 闘ったら、ママを傷つけちゃう……」
「安心しろ。これは既にお前のママではない。あの女は私が殺して、その遺体に私が憑依したのだ。生かしておくと、心の中で暴れられて扱い難いのでな……」
「嘘よ!」
「だったら感じてみろ! この体には、私しかいないことが分かる筈だ!!」
「嘘よ!!」
 そうは言ったものの、有希の『危険察知』で確認してみても、確かに、新田美菜の心の中には、月宮盈と呼ばれていた耀公主の意思しか存在していない。と謂うことは……。

「どうだ? 憎いだろう……。
 父を死に追いやり、叔母を殺し、それに、お前の母までも手にかけたのだぞ。そして今、私はお前を殺そうとしているのだ!」
 新田美菜……いや、耀公主はそう言うと、ニヤリと笑ったのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み