ミメの伝説 アルウェン(3)

文字数 1,858文字

 月宮盈は皆の期待を(はぐ)らかす様に、突然、別の話題を持ち出して来る。

「ところで……、私が『瞬間移動』を会得したと言うのは嘘だ。お前の置かれている状況を、私にテレパシーで送ってきた奴がいる。
 そして、あいつについて、大刀自に話を聴いていた時、それと同じ奴だと思うが、そいつがお前に説明させる為、私を作戦室(ここ)に『瞬間移送』させたのだ。
 ま、それをした奴の正体も、私には大体想像つくがな……」

「で、あの巨大女性は?」
「あれは、アルウェン・スピリット。伝説の処女(おとめ)の残思念だ」
「アルウェン・スピリット?」
「聞くところによると、まだ時空が1つしかない太古の昔、フィという一族が住んでいて、『善を為せ』と云う、雲を掴む様な目的で冒険の旅に行かされていたそうだ。
 その求道者の称号が『ミメ』。そして、その冒険を極め『ミコ』と云う称号を手にしたのがアルウェンと云う少女……」
「……」
「そして、彼女が死んだ後、その意志が形となって具象化したものが、あの化け物だ。
 私を作戦室(ここ)に『瞬間移送』させたのも、恐らく、あいつに違いあるまい……」

「では、本当に平和を(もた)らす為……?」
「さあな……。だが、善を為す処女(おとめ)などと言っても、あいつは『武器を無くすことが、平和への唯一の方法だ……』などとは考えておらん筈だぞ。何故なら、あいつは武力で『ミコ』となったのだからな……」
「そんな彼女が……、一体何を?」
「そこまでは分からん。ただ、あいつは、全ての世界の平和を望む意志であること。我々悪魔からは、考えられない思想だがな……。
 つまり、人間の平和のみを望んでいる訳ではないのだ。必要であれば、人間界だろうと何だろうと、奴は滅ぼすだろう……」
「そんな……」
 美菜隊員が、口を手で押さえて、やっとのことでその言葉を口にした。他の航空迎撃部隊のメンバーは、盈の話に言葉も出ない。

「だが、それを防ぐ手立ては恐らくない。私の聞いたことが真実だとしたら……」
「どうして……? どうして、そんなことが言い切れるのですか?!」
「我々とは、あまりに違いすぎるのだ……、あいつとの戦闘力が……」
「戦闘力?」
「あいつは魔法使いだ。弓や剣も使うそうだが、基本は魔法使いだ。だから主な攻撃は魔法と云うことになる。そして、あいつの得意は、エネルギー変換系の魔法らしい……。
 伝説では、4つの大魔法を師から受け継いでいると言われ、その中に『極光乱舞』『黒炎破弾』と言うものもあるらしい……」
「極光乱舞?」
「ああ、相手の全身の全熱エネルギーを七色の光に変えて、強引に体外へ放出させてしまう、美しくも恐ろしい技なのだそうだ……」
「全身の全熱エネルギーを……?」
「ああ。勿論、噂ではあるが……。
 丁度、負の電子レンジに掛けられたかの様に身体の内側から、全熱エネルギーが奪われていくらしいのだ……。それも、細胞ひとつひとつが……。いや、分子の全てが、絶対0度になるまで……」
 純一少年は、思わず身震いしてしまった。
 もし、それが事実だとすると、それは彼の右手の冷気の比ではない。

 確かに、彼の右手の冷気も超低温にはなる。だが、彼の冷気が絶対0度に近かったとしても、それは瞬間的かつ局所的なものに過ぎない。それでは、ベヘモットの様な巨大な相手には全く通用しないのだ。
 相手の表皮の熱伝導率が高い場合、直ぐに冷気は広い皮膚に拡散されて平温化してしまうし、逆に熱伝導率が低かった場合は針の先で突く様なもので、相手に対するダメージは限りなく小さい。
 だが……、もし、その『極光乱舞』とやらが、本当に全身の熱を奪うものだとしたら、奪われるカロリーは膨大なものとなる。
 その恐ろしさは、体温で例えると分かり易い。-200度の砂粒が皮膚に触れたとしても、人間はその箇所が凍傷になるだけで致命的な痛手にはなり得ない。だが、体温がたった10度下がれば、恐らく殆どの人間は低体温症で生きて行くことが難しいだろう……。
 即ち、『極光乱舞』とは、必殺の極低温攻撃なのである。

 心折れた純一少年は、もう一方の魔法……『黒炎破弾』の説明を受けることは止めて置いた。だが、それでも、まだ尋ねるべきことはある。
「そんな奴が、何であんなことしているのですか? 盈さんはご存知ないのですか?」

「それには、私自らが答えましょう……」
 航空迎撃部隊のメンバーの円陣の外側、月宮盈とは反対側から、軽やかな少女の日本語が聞こえて来た。
 全員がそちらを向くと、そこに立っていたのは、羽こそ無いが、等身大となった、あの巨大少女だったのである。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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