有希の冒険 模造品(4)
文字数 2,064文字
「姫様を
耀子はそう言うと、
それを見て
「風花に何を飲ませた?」
「何だ? そんなことも分からないのか? そうか……」
耀子は、仕方ないと言わんばかりに
「このままでは、お前の妹の命は無い。だったら、これ以上苦しむことなど無かろう?
全ての苦痛を取り去る妙薬を飲ませてやったのだ。やがて、お前の妹は痛みを全く感じなくなる。私に感謝するんだな……」
「妙薬だと……?」
「フフフ。痛みなど忘れ、楽になるさ……」
「どう云う意味だ?!」
「現世の痛みなど消えると言ったのだ……」
「お前は、私を騙したのか? 風花を助けると言いながら、毒を飲ませたのか?」
悔しさと怒りで、ぐちゃぐちゃの表情になった
「悪いが、敵討ちは後にしてくれ。お前の相手は次の奴がする」
そう言うと、耀子はぐったりして動かなくなった風花を担ぎ上げ、アレーナの戦士入場口へと歩き、そのまま立ち去ろうとする。
その男は既にフードを外して素顔を晒している。だが、彼はそんなことなど少しも気にせず、静かに抱えていた人間の身体を足許に置いた。
「あなた、オサキ村の棟梁じゃないわね!」
その男、尾崎真久良は目を閉じて、フッと小さく笑った。
「もう有希が説明した筈ですよ……。僕が誰であるかは……」
「この身体で闘うと云うのも何ですので、そこに置いた本体で僕は闘いますよ」
そう言った途端、そこに置かれていた人間が、まるでゾンビの様に立ち上がってくる。だが、尾崎真久良は、そのまま薄笑いを浮かべ、何も変わった様に見えはしない……。
「全く困ったものです。突然抜けるのですからね。では、私は戻りますよ……」
彼はそう言ってから、さっと元の観客席へと跳び戻った。それを見ていた
「3対3の闘いの筈よ。あの席にいる2人は何なの?」
「あれは、応援団みたいなものかなぁ……」
純一はそう
「お~い、2人とも! その出場者の席に座るなって!」と、悪魔の
それを聞いた彼ら2人は、一般観客席の方へと黙って席を移っていく。但し、真久良の方は、仕方ないとばかりに両手を開いてはいたのだったが……。
「あなた、本当に何者なの……?
あなたたち人間は、1人ではこの妖怪層には来られない筈よ。
「う~ん、美菜が浮気でもしていなければ、たぶん僕が父親だと思うんですけどね……」
純一は両手を組んで考え込む。
「ふざけないで!」
「仕方ないなぁ。真面目に答えますよ。
僕は間違いなく新田純一です。
で、あの2人は、僕と耀子の
「憑依?」
「僕たちは、自由に憑依とか離脱とかが出来るんですよ。ま、昔は道具なしに自由に離脱することは出来なかったんですけどね……」
「人間が……、そんな馬鹿な……」
「あなた方妖狐だってするでしょう? 狐憑きとか……。それで、妖怪となった僕たちは、自由に妖怪層を出入り出来るのです。
因みに、真久良は生きてはいません。彼は僕の術で作った幻ですからね。でも、時間の無い政木の領内では、彼も10分間の制限が無くなるので、たっぷりとホテルでバイトが出来るのですよ……」
最後の台詞は、
「パパ! 一体何を考えているの?
宇宙人に化けてみたり、それを排除する為に、私を大刀自の所に遣わしたり。おまけに私たちと闘って、私のお友達にこんなことまでするなんて……」
有希が観客席から大声で純一に尋ねた。
口で問うことはまだるっこしいが、それも仕方がない。流石の有希でも、この距離では純一の心の声を聞くことは出来ないのだ。
「そのうち分かるさ……」
純一はそう呟いてから、
さあ、
2人の闘いが始まる……。