ミメの伝説 現在(いま)を超える者(8)

文字数 1,533文字

 有希たちはファージの頭部、核の(ほぼ)中央に転移した。1回訪れている場所なのだ。イメージなら充分に出来ている。
 そして、各々(おのおの)回りの状況と敵、スペースレビアタンの配置を確認。そうしてから『脳内会話(テレパシー)』の呪文を唱え、お互いのコミュニケーションを確立する。

「では、説明するわ。盈さん、耀子さん、そして……、純一さん」
 有希は、父を「純一さん」と呼ぶのが少々照れ臭い。しかし、心の中にいるアルウェンからは、正体がバレないようにと、きつく注意を受けているのだ。だから仕方なくそう呼ぶことにしていたのである。
「3人で敵を狙うのではなく、前後、上下、左右、六方向に『極光乱舞』を撃って。それで、この中の敵を全部一気に凍結させる。
 力の不足は、私が背中を押してブースターとなるから。この核の中にいるスペースレビアタンを、一瞬で全て凍結させるのよ。再生なんか、させない!」
「そんなことが……、可能なのか?」
 盈が疑問を口にする。しかし、この少女は敵について一番よく知っている。もう彼女に賭けるしかない。

 有希を中心に、三悪魔がそれを取り囲む。
 盈が両手を上下に、耀子と純一少年が角度を調整して水平にお互いの手が直角になる様に掌を向け、両手を伸ばした。
 そして3人の背に、有希の両手が後押しする様に当てがわれる。それは『阿修羅』の呪文効果。有希は裏呪文でそれを発動し、三面六臂になっていた。
 有希が『魔力増幅(ブースター)』の呪文を唱え終えて魔法を発動する。盈、純一少年、耀子。それぞれ3人に、物凄く大きなエネルギーが追加注入されているのが各自感じられた。
「呪文を唱えて……。
 そして、方向だけ決めて、私の合図で一気に両手から魔法を発射するのよ!」

 三悪魔は呪文を唱え始めた。
 盈、耀子の順に呪文が完成される。そして、少し遅れて純一少年の呪文も完成した。その完成した状態に、追加エネルギーがどんどん注入されていく。

 盈は、アルウェンが自分たち3人を、どうして必要としたのか、やっと分かった様な気がした……。
 彼女は、これをやりたかったに違いない。
 確かに、このためには『極光乱舞』の発射台が六方向に必要だ。それが自分たち3人を呼び出した理由だったのだろう。
 それにしても、この少女はアルウェンの考えがどうして分かるのだろうか?
 エスナウとは、アルウェンの生まれ変わりなのだろうか?
 盈には新たな疑問がいくつも湧いてくる。
 しかし、その質問をしている暇はない。エネルギーが充満し、身体が破裂しそうになってきた。

「撃って!」
 今まで(勿論、見えていた訳ではなかったのだが……)、光線砲の如く直線的に魔法波動が発射されていたものが、今、スプレーで拡散していく様に、そして、水に広がる波紋の様に『極光乱舞』の魔法が広がり発射されていく……。
 余りに遠すぎて、スペースレビアタンを目で確認することなど出来ないが、近くの遺伝子から次々と凍結していくのが、脅威の消滅と云う形で三悪魔にも感じられていく。
 恐らく、有希が裏呪文で『超無窮動』を発動しているのだろう……。凍結したスペースレビアタンは、寸時も置かずに昇華する様に粉々に消えていった。

「凄い……」
 耀子は思わず声を漏らし息を飲んだ。あの超巨大怪獣がいとも容易く凍結され、次々と粉砕されて行くのだ。もう既に、前回倒した数の倍は倒している。
 しかし、その勢いも200匹に近付くにつれて落ちてきた。完全に凍結されないスペースレビアタンがぽつぽつ現れたのだ。
 そして、呪文の波動がファージの核の壁まで達した時、スペースレビアタンは約200匹程度残存していた。何十匹かは、無傷のまま生き残っている……。

「これでも、全然足りないのか……」
 純一少年は心の中でそう呟いていた。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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