ミメの伝説 偽りの伝説(5)
文字数 1,762文字
「でも、アルウェンさんはミメになった。と云うことは、クレリアさんは……」
「ええ、姉がミメでいた期間は、とても短いものでした。
その日、冒険者であった彼女は瀕死の重傷を負っていました。しかし、それでもミメと云う立場上、皆に全てを任せて逃げ出すことなど出来ません。彼女は自分の出来ることをしたのです。罠の危険のあるドアを皆よりも最初に開くと云うことを……。
彼女は毒蛇に噛まれました。そして、もう助からないと覚悟した時、皆に隠れてその場所に残りました。彼らの足手纏いにならないようにと……。
ミメである者が資格を失うと、その印であるミメの小太刀がフィの村に戻ります。
その日、小太刀がフィの村の祭壇には、何時の間にか、ミメの小太刀が置かれていたとのことでした……」
「呆気ないものだな。結果として、サニアがミメを続けていた方が、アルウェンはミメにならずに済んだと云うことか?」
「そうかも知れません。でも、厚意が裏目に出たからと云って、その厚意が悪意に変わることは無いでしょう?
私に対する姉の愛情は、それが仮に姉の自己中心的な発想によるものだったとしても、決して私への憎しみから生まれた訳では無いのです。そして、この後、私は姉と剣を交えることなりますが、姉の私への愛情はずっと変わらないものでした……」
それを聞いた純一少年は、思わず素頓狂な声を上げてしまう。
「え? クレリアさんは死んだんじゃないんですか? 僕はてっきり、彼女は……」
「彼女は、ある男に命を助けられました。もしかすると、それは高度な医療の類だったのかも知れませんが、ミメの小太刀が戻ったのですから、恐らくクレリアは一度死んだのではないかと思います……」
「と言うことは、蘇生術?! そんな高度な術を……」
「姉に蘇生術を施した男、彼は魔僧正と名乗っていました……」
「魔僧正?」
「彼は別の時空から来たのだと云うことです。伝説では私の時代には時空は1つと言われていますが、ここからも分かる様に、それは間違いです。
もしかすると……。彼は時空を渡ってきたのですから、大悪魔の先祖の様な存在だったのかも知れませんね」
「はぁ、僕たちのご先祖様ですか……」
「単なる私の想像です。根拠はありません。
それと、彼が聖職者であったかどうかも分かりません。唯、彼が言うには、彼がこの世界に初めて来た時、親切な人間に出会い助けられたのですが、その人間が同じ人間の山賊に玩具の様に殺されるのを見て、理性も何も吹っ飛んで、憎しみだけが残り、魔僧正となった……とのことです。
そして、彼は人間を憎み、殺戮の限りを尽くしたと言っていました」
「その位で……。随分と、キレやすい人なんですね」
「本当のところは分かりません。彼がそう言っただけです。唯、人々に魔王として恐れられていたことは間違いなく、私の最初の冒険の目的は、彼を倒して闇の支配から人々を解放することでした」
「ややこしいな……」
「ええ、奇妙な図式です。そして、その頃にはクレリアは魔僧正の片腕として悪の限りを尽くしていました。ですから、私とも何度か剣を交えることになってしまったのです」
「で、結局、アルウェンさんが、クレリアも魔僧正も倒したと云う訳ね……」
「いいえ。私は結局、姉も魔僧正も倒せませんでした」
「はぁ?」
「クレリアは魔僧正にこれ以上の悪事をさせないように、態と自分が汚名を被り、悪事を行っていました。逆に魔僧正の方は、誰かに倒して貰い、自分の存在を無くそうとしていました。実際、彼はクレリアに、私の仲間に化けた彼自身の暗殺を命じています。
私には、実力的にも気持ち的にも、そんな2人を倒すことが出来ませんでした……」
「で、どうしたのだ?」
「私には秘策がありました。1人では魔力が足りませんが、魔僧正を含めた3人でなら、それを行うことができる筈でした。時間を戻すと云う大魔法が……。
そうして彼を、この世界に来た時間に戻し、全てをやり直させるのです……」
「昔、銀星狐と云う妖怪が、真久良や縫絵さんなど、何人かの力を合わせて、それと同じ様なことをやったのを覚えていますよ……」
「この殺人狂のお婆さんに、私が殺された時のことね……」
「耀子! もう一度殺されたいか?」