ミメの伝説 アルウェン消滅(1)
文字数 1,859文字
「ほう、これがジスの船内か? 原当麻基地に来た最初のやつは、新田が純一と痴話げんかの挙句、無理心中を図って自爆させちゃっただろう? 俺、初めてなんだよな……」
「鵜の木隊員、本気で怒るわよ!」
「おーこわ!」
鵜の木隊員と美菜隊員がいつもの調子で、冗談を言って場を和ませる。と云っても、その必要があるのは矢口隊員だけで、後の面々は緊張と云うより、充実した面持ちで発進の時を待っていた。
「下丸子、作戦内容の説明を……」
「はい」
下丸子隊員が蒲田隊長の脇に立ち、彼の指示で作戦内容を説明し始める。
「我々はこれから、ファージに最短経路で向かい、敵の身体にアンカーを取りつけ、太陽と逆方向へと、奴の落下を食い止めます。
と、作戦はこれだけですが、相当な危険を伴います。
本来ならば、相手が太陽の略反対側と云う位置関係なので、金星軌道や、場合によっては外側の火星軌道を運行し、相手と太陽の間に来た時点で、敵に向かうのが燃料効率が良く、かつ安全です。
宇宙航行の経験のない我々としては、そうすべきなのでしょうが、それでは時間が足りません。水星軌道だとしても半周するのに約40日、金星軌道では100日も掛かってしまいます。外惑星軌道など問題外です」
「じゃぁ、どうするの?」
美菜隊員が問う。
「ジズの磁界航行システムをフル稼働させ、螺旋状に加速しながら太陽へと向かって落下します。丁度、渦潮の中心に飲み込まれる難破船の様に……」
「え、えぇぇぇ~」
下丸子隊員は、矢口隊員の奇声を無視して嬉々として話を続ける。彼はジズの持つ航行システムを説明したくて仕方ないのだ。
「磁界航行システムとは、最新鋭の観測情報から、太陽系内の磁界をマップ化し、ジズ自身を電磁石とすることで、宇宙空間を効率よく飛行する運行方式です。分かりやすく言うと、宇宙空間を走るリニアモーターカーにジズがなると云うものです。この他にもジズには最新鋭の技術が搭載され……」
「下丸子、そいつは良いけどな……。太陽に落下しちゃ、俺たち燃えちまうだろ? どうすんだよ?」
「鵜の木隊員、話は最後まで聞いてください。落下すると云っても、太陽に垂直に突っ込む訳ではありません。恐らく先行するガルラもそうでしょうが、斜めに入って行き、ギリギリの所で太陽の縁を周り、それから太陽から遠ざかって行くのです」
下丸子隊員の説明に、心配そうな表情で美菜隊員が不安を口にする。
「でも、下丸子隊員。あたしたちは、純一みたいに引力を自由に操れないのよ。太陽の引力は絶大だわ。その引力に捉まったら……」
「恐らく大丈夫です……。充分な速度で通過できれば、彗星の軌道の様に太陽を掠め、それから、どんどん遠ざかっていくことが出来る筈です」
「恐らくか……」
沼部隊員も、流石にノーコメントではいられなかった。
「それに、ジズにはガルウイングが搭載されています。これは文字通りジスの翼。これで太陽風を受け、太陽から遠ざかる方向へと、帆船の様に宇宙空間を飛ぶことが出来るのです。これはファージと遭遇し、相手の太陽落下を阻害する際のパラシュートの役目も果たします」
「で、成功確率は?」と、蒲田隊長の質問だったが、下丸子隊員の答えは簡単だった。
「経験も、実績も無いのですよ。そんなもの、割り出せる訳ないじゃないですか……。出たとこ勝負ですよ」
「出たとこ勝負か……」
「では、止めますか?」
下丸子の一言で、その議論は終了した。
確率や危険性がどうであろうと、もう止める訳にはいかないのだ。出撃の可否を判断する情報など、収集する必要はない。
「この他にも、今回は活用されないと思いますが、ジズには戦闘機自動指揮システムが搭載されています。これは従来、パイロット、例えば……、鵜の木隊員が操縦できる戦闘機はエアレイ一機でしたが、このシステムでは、鵜の木隊員は隊長機をこのジズ内で操縦すれば良く、他の機体はAIが鵜の木隊員の作戦指示に従う形となります。
即ち、1人で1編隊を指揮出来ると云うものなのです。それが、このジズには5システム同時稼働できます。ですから、我々だけでも、敵の大編隊と対峙することが可能になっているのです。それに……」
「もういい、下丸子。それは、この作戦が完了してから聴こう。離陸の準備を開始してくれ。新田、操縦席に移動……」
蒲田隊長が珍しく、全員の意見を汲み取り、素早く決断した。
「発進だ……」