有希の冒険 模造品(10)
文字数 2,068文字
耀子はそう言うと、この世界の
「理由があるにせよ、あれは戦士に対する態度ではなかったわ……。先ずそれを、許して欲しい……」
耀子はそう言うと、頭を地面に擦りつけて謝罪した。
「耀子さん、そんなこと……、もうどうでも良いでしょう……。でも何で?」
「それを話す前に、もう1つ……」
再び耀子は地面に額を付けた。そしてその謝罪の理由を語る。
「私は最初、こちら時空の
「耀子さん……」
「でも、自分の妹の為に、プライドを捨てて、臣下の面前で犬の真似までして、狸のフンまで口にしようとする姿を見て、『あ、この娘、本当に本物の
こっちの
「耀子さん、分かったわ……。でも結局、私も風花も助けてくれた。狸の糞も舐める前に止めてくれたし、そもそも、私は馬鹿にされても仕方ないほど弱かったもの」
「ま、テツの小芝居はちょっと遣り過ぎだったけどね……」
「でも、どうして、こんなお芝居を?」
「それは、あなたも今なら素直に聴けると思うけど……、こういう経緯なの。
あなたを造った政木の大刀自様は、あなたを自分の後継者にしたいと思っていたの。白面金毛九尾の狐のね……。でも、このままだと、あなたは有能な政木家の跡取りにしかなれない。そこで、私たちの時空の大刀自に、あなたのことを相談されたのよ……」
「それで、私の天狗の鼻を折れと?」
「そうなんだけど……。
その前にあなたの処遇についての助言があったの。『そちらの
でも、あなたがそれを素直に聴くとは思えない。兄も言っていた様に、人間と妖怪の橋渡しは悪いことではない。誰かがやらなければならないし、事実、迫害を受けている妖怪も現に存在している。そんな人たちを置いて、あなたが武者修行などに旅立てる訳ないでしょう?」
「そうね……。私は国民をおいて、自分の修行なんかに、決して1人で行くことは出来なかった……」
「だから、天狗の鼻を折ったの。それに国民が描く強者と云う偶像もね……。今ならもう、国民の目にどう映るかなんて、考える必要もないでしょう?」
「でも、プライドとかでは無くて……、それでも、ここの国民が心配です。橋渡しは出来ないにしろ、弱者は守らないと……。
勿論、今は私が弱いことなど分かっています。でも……」
「それは安心していいわ。その間はこっちの
オリジナルの霊狐シラヌイは、
「しっかり、修行してきなさいね」
「分かりました。今なら自分以外の人にでも、お任せすることが出来ます。お姉さん、宜しくお願いします」
霊狐シラヌイは、上を見て、何かを思い出した。そして、口をまた尖らせて、人差し指を
「そう言えば、あなた、失礼なこと言っていたわね。謝罪を要求するわ!」
「え?」
「あなた、『秘めた邪な心が毛色を黒に変えている……』って言ったでしょう? もう失礼だわ。違うわよ! 私たちの毛色が黒いのは、太陽の子だから! そして天を司る雷の神を宿しているからなのよ!!」
「雷神?」
「そう、雷神。そう言えばあなた、フリンジが無いわね……」
「フリンジ?」
「ええ、これよ」
霊狐シラヌイは左の袖を捲って、その腕に生えている、金色に輝く何本ものロープを
「あなたは
「ほら出た。後は力の加減で、自在に伸び縮みさせられるし、手を使わずに、そのまま三つ編みにも出来る筈よ」
「
そして、耀子はそれまで黙ってていた少女にも声を掛けた。
「風花ちゃんはどうする?」
「私? 私も出来ればお姉ちゃんと修業に行きたい。私、お姉ちゃんよりもっと弱いから、もう少し強くなりたい……」
「じゃ、私の方の風花も、こっちに呼び寄せないとね……」
霊狐シラヌイはそう言って笑った。
耀子はそれを聞いてから、闘技場の方を見て、静かに呟く……。
「あとは、厄介な姪っ子だけだな……。全く、テツが甘やかすから……」