ミメの伝説 アルウェン(5)

文字数 1,632文字

 それを聞いた月宮盈は躊躇うことなく、胸元に手を差し入れた。純一少年は耀公主の攻撃に備え、迎撃の構えを取る。最悪、相打ちになったとしても、ここにいる全員を護る心算だ。他の全員は、この展開に声を出すことも動くことも出来ない。

 だが、盈は、純一や彼の仲間に攻撃しようとはしなかった……。唯、懐から取り出した琰を、自らの額に当てがおうとしただけに過ぎない。
 それで精神を離脱し、誰かに憑依しようと云うのか? いや、耀公主なら、琰を使わずとも、自在に憑依することや解除することが出来る筈だ。
 純一少年が盈の動きに戸惑い。構えの手が少し下がる……。しかし、相手の月宮盈は、その隙を利用して、純一に攻撃するどころか、水晶玉を額に当てることすらしなかった。いや、出来なかったのである。
 その時、盈の手には痺れが走り、「うっ」と云う声と共に琰を取り落としていた。なんと、アルウェンと云う少女が、彼女の手を『光の矢』で撃っていたのである。

「OKよ。もういいわ……。あなたが本当に私に従うことは理解出来たから……」

 それにしても、色々なことがあったが、それは、ほんの一瞬。将に、刹那の出来事であった……。
 しかし、この少女と盈以外は、この展開が理解できない。分からないことを、素直にそう口に出すのは、大概、矢口隊員が一番だ。
「あの~、良く分からないんですけど~。どうなったんですか~?」
「あら、分からないかしら? あなたたちは、結果的に、この大悪魔に守られたのよ」
「え~?」
「この人はね、あなたたちを殺す替わりに、自分が死んでしまおうとしたの……」

 この回答は全員を混乱させた。勿論、純一少年も含めてだ。
「それが何で服従している証しになるのですか? あなたの言うことを、盈さんは守らなかったじゃないですか?」
「彼女は、服従すると誓ったものの、到底あなたたちを殺すと云う決断は出来ない。
 そんな場合にどうするか?
 私にイチかバチかの闘いを挑むか。それとも自ら死を選ぶか? 彼女は服従を守り、私と闘うことを選ばなかった。だからOK。
 仮にあなたたちを殺そうとしたらNGよ。それは何か策略と言うか、悪意を感じるものだから……」
「はぁ……。でも……結局、盈さんが殺らなくても、僕たちはあなたに殺されちまうんじゃないですか? おんなじですよ……」
「純一君……。もし、あなたが盈さんの立場だったら、皆を殺せるのかしら? ね、決して同じじゃないでしょう?」

 確かに、アルウェンと名乗る少女の言う通りだ。仮に全員が助からないと分かっていたとしても、仲間をそう簡単に殺せるものではない。
 だが、こんな小さな女の子に言い負かされた儘と云うのも少し癪である。純一少年としては、何とか一言でも言い返したい……。
「もし、イチかバチかの闘いを挑んだら、NGですか?」
「それは保留。少し私の力を分からせてから再テスト。分かったかしら? もう少し勉強なさいね、純一君……」
「ミメさんだか何だか知らないけど……。こんな小さな女の子に説教されてもなぁ……。政木の大刀自じゃあるまいし……」

 アルウェンと云う少女は、それを聞いて小さく微笑んだ。
「私は、あなたが生まれる遥か昔から存在しているのよ。まだ時空が、こんなにも分かれていなかった太古の昔から……。
 私にとっては、ボ◇◆〇……、あなたも、イシュタ■▼×も、そして、ここに居る人間たちも、皆、私の子孫の様なものなの……」

 少女の台詞は、その姿に似つかわしくない物であった。だが、これまでの不自然な出来事のオンパレードを考えると、これも信じた方が良いのかも知れないと純一少年は思う。
「人間と同じ祖先を持つなんて、耀子が聞いていたら、涙を流して喜ぶでしょうね……。
 あいつ、ずっと人間に成りたがってましたからね……」
 アルウェンと云う少女は、純一少年の言葉に満足そうに笑みを浮かべ、悪戯っぽく、そう言葉を返した。
「だから……、お婆ちゃんの言うことは、心して聞くものよ……」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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