ミメの伝説 現在(いま)を超える者(6)
文字数 1,464文字
先ず若い頃の母と話しをしてみたかったのだが、美菜隊員とだけ親しげに話をするのも正体がばれる危険があると思い、有希は全員と挨拶を交わすことにしたのである。
そんな有希に盈が言葉を掛ける。
「お前が正体を隠したいと云うのであれば、それで構わないが、私らはお前をどう呼んだらいい? 偽名でも良いが、名前が無いのは私らとしては困るのだがな……」
確かに、盈の言うことは尤もだ。有希は適当に答えを返した。
「じゃぁ……、エスナウとでも呼んで。
「そうか。ではエスナウ、宜しく頼む」
そして盈は、次にAIDSクルーたちに自分たちの要望を伝える。
「我々は呪文も回復したい。少し休ませてくれないか……」
「ええ、構いませんよ」
「しかし、ここに前線基地があると云うのは実に心強いな……」
そう言って、盈は寝る場所を探そうとしたが、その必要はないと、蒲田隊長が仮眠室があることを彼女に伝える。
そんな盈に、有希は注意を与えた。
「盈さん、次の攻撃で決めるよ。私たちには時間が無いの。ファージは暫くの間、宇宙船の推進力で太陽に向かうことは出来ないだろうけど、この船とトルク星系人の宇宙船の燃料が尽きたら、また太陽の方向に動き出すからね。そして、金星の軌道、デッドラインを越えられたら、もう終わり。それに……」
「おい、金星のデッドラインとは、一体何のことなのだ?」
盈が有希の説明に驚きの声を上げた。
この話は、AIDSのメンバーには既に知れ渡っていた内容だ。だが、三悪魔には初耳。そこで、大悪魔エスナウが金星のデッドラインに関する話を、仲間の三悪魔に簡単に説明する。しかし、そのトルク星系人の考えに、純一少年は納得出来ない様子だった。
「僕たちは既に、ある程度の数の遺伝子を破壊してるんだぜ。遺伝子なんて、一部でも欠損があったら、正確には再生できないんじゃないのか? このまま太陽に突っ込んだって、もう大丈夫だと思うんだけどな……」
確かに、遺伝子であれば一対でも壊されていれば、正常に細胞分裂することなど叶わない。純一の疑問は、実は何人かのAIDSクルーの疑問でもあった。その代表として、美菜隊員が実の娘に質問をする。
「あたしもそう思います。遺伝子の欠損があるのなら、ファージの繁殖は不可能です。トルク星系人は、繁殖を防ぐために太陽を破壊するのでしょう?
繁殖できない状態であれば、態々、太陽を破壊してしまう必要などありません。つまり、金星のデッドラインと云うものは、
有希は、母から敬語で話されると、どうにも居心地が悪い。だが、そう云う素振りは見せられないのだ。出来る限り真剣に答えねばなるまい。
「アルウェンが遺伝子と呼んだのは、その外観からよ。クジラと魚、外観は似ているけど、実際は大きく異なるわよね。ウィルスとファージも外観は似ているけど、増殖手段は大きく異なるの……。
あの遺伝子は、そうね、スペースレビアタンと呼びましょう。スペースレビアタンは遺伝子と言うより、ファージの幼生と云う位置づけが近いと思うわ。無生物に幼生形体があると云うのも変だけど、そう云うものなの。
だから、太陽に落ちた時、あの1体1体が、次のファージになる可能性がある。
もし、このまま太陽に突入した場合、太陽の総エネルギーにも依るけど、約50程度、最大400近いファージが再生することになるわね……」