ミメの伝説 アルウェン(7)
文字数 1,590文字
「大体分かりました。で、あなたは何故ここ、私たちの基地に現れたのですか? それに態々、月宮盈さんを召喚している。私たちに何をさせたいのですか?」
「流石、隊長さんですね。話が早い……」
お世辞に頭を掻いて照れる蒲田隊長を置いて、少女は先ず大悪魔2人に説明を始めた。
「月宮盈さん、新田純一君、お2人には少々お時間を割いて頂いて、私から『極光乱舞』と『超無窮動』を習得して貰います。そして、ファージへの内部突入を手伝って頂こうかと考えています……。
大丈夫ですよ、鉄男君。あなたの妹さんも、当然、お呼びしますから……」
純一少年は思っていたことを見透かされたので、思わず舌を出してしまう。少女はそれを無視し、今度は蒲田隊長に向かい、AIDSクルーへの依頼を話し出す。
「そして、もし私を信用して頂けるのなら、対侵略的宇宙人防衛システムの皆さんには、新田参謀経由で、私への一層の攻撃を進言して頂きたいのです。そして、あなた方自身も、ガルラで攻撃に加わって下さい。まだまだ『黒炎破弾』のエネルギーは足りてはいません。お願いします……」
「分かりました。あなたを信じましょう。ここにいる全員、あなたの指示に従います。但し、月宮盈さんはAIDSクルーではないので、私に命令権がありません……」
蒲田隊長が、部隊を代表して答える。そして盈も……。
「私はお前に服従すると既に誓っている。それに、この条件、決して私たち悪魔に損な取引と云う訳ではない。その『極光乱舞』と云う技、是非とも覚えてみたい。出来れば、他の魔法も見てみたいものだ……」
少女は満足そうに、にっこりと微笑んだ。
「お見せしますわ……。『爆雷豪雨』でも『大地鳴動』でも。時間があれば習得もして置いて下さいね。そうすれば、次にファージが現れた時、あなた方が、そのまま即戦力となるでしょうから……」
少女はそう言うと、両手を前に翳して空間にワームホールらしき黒い穴を創り出す。そして、一同に向き直り暫しの別れを告げた。
「では、済みませんが、暫くの間、この2人をお借りします。そして、その間、私への攻撃も宜しくお願いしますね……」
「面倒臭いなぁ……。僕は『極光乱舞』とやらよりも、美菜とここで、のんびりと暮らしていたいのですけどねぇ……。
琰か何かで、修行とか無しに簡単に覚えられませんか……? うわっ!!」
月宮盈が、そう言ってぼやく純一少年の背中を押し、穴の中へと彼を突き飛ばした。そして自分も黙って穴の中へと入って行く。
そして黒い穴は、少女が入ると同時に、スーッと消えて行った……。
その5日後の朝、世界中から一斉攻撃を受けた巨大少女は、アリゾナから突然、その姿を消した……。
人々は、自分たちの必死の総攻撃によって、地球支配を目論む凶悪な宇宙人を倒したか、別世界へと駆逐できたと考えた。しかし、真の脅威は今、太陽系の最外殻防御ラインである海王星軌道を越え、生命エネルギーの源である太陽に、これから将に襲い掛かろうとしていたのだ。
その脅威について、殆どの人はその認識を持ってはいない。その物体の存在が、まだ広く知られていなかったからだ。
一部、その存在を確認した者もいたが、その質量の小ささに、特別それを問題視することはなかった……。それは単に、ガスより希薄な宇宙の風船が太陽系方向に移動しているだけであり、幸いなことに、その進路上に地球はなかったからである。
そんな中、善を為す処女と3人の大悪魔は、その脅威に立ち向かう為の準備を終えようとしていた。
しかし、この4人だけでは、ファージに勝つことなど出来はしないだろう。
そう……。
太陽系を護るには、大切な仲間の助けが、どうしても必要なのだ……。