ミメの伝説 アルウェン(2)
文字数 1,308文字
美菜隊員が新たな疑問を投げ掛ける。この美菜隊員の質問は、明らかに純一少年に向けられたものであった。
「僕にも分かりません。登録されている宇宙人コードには、どこにも無いらしいですけど、悪魔かと云うと、彼女みたいな大悪魔は、僕も全く聞いたことがありませんね」
「で、脅威なの?」
「それが、彼女自身は全然脅威じゃないんですよ。でも、なんか、彼女は危険なんです。僕にとって、物凄く……」
この事件に関して、当初から純一少年は奇妙な感覚を味わっている。
体をじんわりと締め付ける様な、慢性的な不快感……。これは近々ではないが、途轍もなく巨大な脅威が迫っている時に感じるものだ。だが、あの巨大な女性からは、一片の脅威も感じない。
「おい、純一! それじゃ何も分からないって言っていると同じだろ?」
「ですから、鵜の木隊員。僕には何も分からないんですよ!」
興奮のあまり大声を上げ、純一少年は恥ずかしさのあまり下を向き頬を赤らめた。そんな彼に、美菜隊員は優しく助言をする。
「誰かに聞いてみれば? 前に相談に乗って貰った、おばば様とか……」
「『十の思い出』は、真久良を除いて開放してしまいました。真久良は自分に関係すること以外には全く興味を示しませんし、多分何も知りませんよ。それに、
「純一、耀子さんならどうだ?」
鵜の木隊員が、少し嬉しそうに純一少年に尋ねる。
「駄目ですね。耀子の知らないことは僕も知らない。僕の知らないことは耀子も知らない。僕たち2人は、ずっと同じ経験をしてきましたからね」
「他に誰かいないのか? 正信さんとか、シラヌイちゃんとか?」
「彼ら、妖怪には詳しいかも知れないけど、あの女性は妖怪には見えませんからね……。ま、もし知っているとしたら、政木の大刀自か、耀公主の月宮盈さん……」
月宮盈の名前を聞いて、美菜隊員は少し鳥肌が立ち、下丸子隊員は顔が赤くなる。
「今度、前の世界に戻って、僕が2人に会って聞いてきますよ……」
「その必要は無い。今、ここで話そう」
航空迎撃部隊の全メンバーが、その声に驚き一斉に視線を移す。すると、視線の先には中年の美しい女性が脚を組んで、通信オペレーター席に座っているではないか……。
「盈さん、いつの間に?」
「いつまでも、私が同じだと思うなよ。『瞬間移動』など、化け狐に出来る程度の術だ。別に難しいものでもあるまい」
突然現れた女性……。即ち、月宮盈は、純一の問いに嘯いて答える。
彼女は……、
美菜隊員、下丸子隊員、そして純一少年が記憶している月宮盈と比べると、少し歳を重ねていた。しかし、それでも耀公主の美しさには大女優の様な風格があり、あの巨大少女と遜色ない……とは流石に言い難いが、大きく劣ると云う程のこともない。
「大刀自は知らぬそうだ。私も伝説でしか耳にしたことはない……」
「では、盈さんは、あの巨大女性について、
何か
を知っているのですね?」「ああ、少しだけだがな……」
皆、この突然現れた不思議な女性の言葉に、固唾を飲み込んだ。