有希の冒険 封印されし力(9)
文字数 1,961文字
有希は、全ての大悪魔能力が復活し、運動能力も人間のものから悪魔のものに変わりつつある。そして、悪魔の思考力も回復し、忘れていた呪文も全て蘇っていた。
金属の腕輪が破壊され、大悪魔新田有希が復活したのだ。
一方、
「新田さん……。仮に、有希ちゃんが強かったとしてもです、私たちが必要なのは、戦力ではありません。対宇宙人の戦術、あるいは戦略なのです。
それに、この侵略は、人間、即ち、あなた方に向けられた鉾なのですよ。少しは、私たちに協力して下さっても、悪くないと思いますが、いかがでしょうか?」
「戦術ですか……。だとしたら、僕ではもっと駄目ですよ。僕はそっちは苦手なんです。なんたって、僕は力攻めだけで、敵を倒してきたのですからね……」
風花は、何となく、やる気の感じない純一に、かなり苛々してきている。
「新田さん、あなたが強いと云っても人間レベルでしょう? 私たちはあなたなど、別に戦力として必要としていませんから……」
「そう思いますか……?
だったら、闘ってみせましょうか? 今ここで、僕が、あなたのお姉さんと……」
風花は今にも怒りを爆発させそうであったが、冷静を装った
「止めときますわ……。折角、助けた有希ちゃんを、父なし子にして、悲しませたくありませんから……」
「そうですか、残念ですね。ところで、戦術なら、大刀自に任せた方が絶対いいと思いますよ。戦闘力でも大刀自には敵わないだろうけど、それ以上に、知性では月と鼈ですからね。僕なんかの出る幕じゃない」
別に、お世辞を言った訳ではない。だが、
そして……、
一瞬の間を置いて、意を決した
「祖母は、あなたがた人間の味方ではありません。祖母は、どちらが人間界を支配しようと、妖怪にとっては何も変わりがないと考えています……」
「政木様が敵に回るんじゃ、人間に勝ち目なんか無いじゃないですか……」
純一は最早これまでとばかりに、投げ遣りに呟く。これには風花が答えた。
「おばあ様は、人間の敵になると言っている訳でも無いのです。それは、人間と宇宙人との闘いで、妖怪が関与すべきでないと云っているのです」
「正論ですね。僕もそう思いますよ」
「そうなると、宇宙人に味方する妖怪を止めることが出来ないのです。お互い自由意志で行動できますから……」
と、
「だったら、有希、お前、政木の大刀自に会って説得してきなさい。有希なら、政木様と対等に会話できる……」
純一は、相手の心を読める政木狐と、互角に話しが出来るのは有希だけだと云う心算で言ったのだが、この2人には、そう解釈はされなかった様だった。
「ありがとうございます。お時間を取らせました。私たちは帰ります……」
「あら、夕食の準備がもう出来ますのに、お食事だけでもどうです?」
「結構です。私たち、この方とは食事する気にはなれません」
「だったら、一緒に有希を連れて行ってくれませんか?」
純一の台詞に、
「あなたは、どうしても自分の娘を危険に晒したい様ですね。そんなに自分の子が憎いのですか? 女の子なのですよ。怪我でもしたらどうするのです」
「僕は有希に『冒険をしてこい』と言ったのですよ……。状況が変わったからって、簡単に止めろとは言えませんよ」
「分かりました。どうしてもと言うのですね。でしたら、有希ちゃんの食事が終わったら、有希ちゃんを外に出してください。私たち2人は、玄関前で待っていますから……」
有希は「もうパパったら、2人を怒らせちゃって……」と思ったが、流石に、それは口に出しはしない。
もっと困ったのが美菜の方で、それについて彼女は、有希と違って、ハッキリと言葉にして純一に食って掛かる。
「もう、パパったら、どうするのよ。2人が好きそうな、特製きつねうどんを作ったのに。2人分余っちゃたじゃない……」
「分かりましたよ……。パパが責任とって3人前食べます」
そう言うと、純一は口を尖らせ、妻の非難に不満そうな表情を浮かべたのであった。