有希の冒険 封印されし力(9)

文字数 1,961文字

 数分前と、有希は明らかに違うものに変わっている。だが、今、この中で、有希の違いに気付くことが出来たのは、父である純一だけだったろう……。
 有希は、全ての大悪魔能力が復活し、運動能力も人間のものから悪魔のものに変わりつつある。そして、悪魔の思考力も回復し、忘れていた呪文も全て蘇っていた。
 金属の腕輪が破壊され、大悪魔新田有希が復活したのだ。

 一方、沼藺(ぬい)はと云うと、純一が闘いに参加しないことに、未だ不満を持っていた。

「新田さん……。仮に、有希ちゃんが強かったとしてもです、私たちが必要なのは、戦力ではありません。対宇宙人の戦術、あるいは戦略なのです。
 それに、この侵略は、人間、即ち、あなた方に向けられた鉾なのですよ。少しは、私たちに協力して下さっても、悪くないと思いますが、いかがでしょうか?」
「戦術ですか……。だとしたら、僕ではもっと駄目ですよ。僕はそっちは苦手なんです。なんたって、僕は力攻めだけで、敵を倒してきたのですからね……」
 風花は、何となく、やる気の感じない純一に、かなり苛々してきている。
「新田さん、あなたが強いと云っても人間レベルでしょう? 私たちはあなたなど、別に戦力として必要としていませんから……」
「そう思いますか……?
 だったら、闘ってみせましょうか? 今ここで、僕が、あなたのお姉さんと……」

 風花は今にも怒りを爆発させそうであったが、冷静を装った沼藺(ぬい)が、その前に怒りを抑えて純一に答えを返した。
「止めときますわ……。折角、助けた有希ちゃんを、父なし子にして、悲しませたくありませんから……」
「そうですか、残念ですね。ところで、戦術なら、大刀自に任せた方が絶対いいと思いますよ。戦闘力でも大刀自には敵わないだろうけど、それ以上に、知性では月と鼈ですからね。僕なんかの出る幕じゃない」

 別に、お世辞を言った訳ではない。だが、沼藺(ぬい)と風花を怒らせるものではないと純一は考えていた。しかし、2人は不満そうに顔を見合わせ、どうしようか迷っていると言う風で、直ぐに言葉を返そうとはしない。
 そして……、
 一瞬の間を置いて、意を決した沼藺(ぬい)が状況を皆に説明する。
「祖母は、あなたがた人間の味方ではありません。祖母は、どちらが人間界を支配しようと、妖怪にとっては何も変わりがないと考えています……」
「政木様が敵に回るんじゃ、人間に勝ち目なんか無いじゃないですか……」
 純一は最早これまでとばかりに、投げ遣りに呟く。これには風花が答えた。
「おばあ様は、人間の敵になると言っている訳でも無いのです。それは、人間と宇宙人との闘いで、妖怪が関与すべきでないと云っているのです」
「正論ですね。僕もそう思いますよ」
「そうなると、宇宙人に味方する妖怪を止めることが出来ないのです。お互い自由意志で行動できますから……」
 と、沼藺(ぬい)が補足する。
「だったら、有希、お前、政木の大刀自に会って説得してきなさい。有希なら、政木様と対等に会話できる……」

 沼藺(ぬい)と風花は立ち上がった。席を蹴ったと云う感じだろう。
 純一は、相手の心を読める政木狐と、互角に話しが出来るのは有希だけだと云う心算で言ったのだが、この2人には、そう解釈はされなかった様だった。

「ありがとうございます。お時間を取らせました。私たちは帰ります……」
 沼藺(ぬい)の言葉を聞いて、美菜が沼藺(ぬい)と風花の2人に尋ねた。
「あら、夕食の準備がもう出来ますのに、お食事だけでもどうです?」
「結構です。私たち、この方とは食事する気にはなれません」
「だったら、一緒に有希を連れて行ってくれませんか?」
 純一の台詞に、沼藺(ぬい)は怒りを抑えきれない様に答えを返す。
「あなたは、どうしても自分の娘を危険に晒したい様ですね。そんなに自分の子が憎いのですか? 女の子なのですよ。怪我でもしたらどうするのです」
「僕は有希に『冒険をしてこい』と言ったのですよ……。状況が変わったからって、簡単に止めろとは言えませんよ」
「分かりました。どうしてもと言うのですね。でしたら、有希ちゃんの食事が終わったら、有希ちゃんを外に出してください。私たち2人は、玄関前で待っていますから……」
 沼藺(ぬい)と風花は、プイと後ろを向くと、そのまま玄関の方へ向かい、外へと出ていってしまった。

 有希は「もうパパったら、2人を怒らせちゃって……」と思ったが、流石に、それは口に出しはしない。
 もっと困ったのが美菜の方で、それについて彼女は、有希と違って、ハッキリと言葉にして純一に食って掛かる。
「もう、パパったら、どうするのよ。2人が好きそうな、特製きつねうどんを作ったのに。2人分余っちゃたじゃない……」
「分かりましたよ……。パパが責任とって3人前食べます」
 そう言うと、純一は口を尖らせ、妻の非難に不満そうな表情を浮かべたのであった。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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