有希の冒険 封印されし力(8)

文字数 1,719文字

「すみません、本題に入らせてください」
 沼藺(ぬい)は少し表情を険しくして、事件の経緯の説明を始める。

「私たちの地球は、今、宇宙人に狙われています。それも、今までの様に人間世界からではなく、私たちの妖怪世界からです。勿論、妖怪など云う話、直ぐには信じては頂けないかと思いますが……」
「僕は信じてますよ……」
「あ、ありがとうございます……。
 宇宙人は、我々妖怪に人間世界の侵略を手伝えと命じてきました。その見返りとして、妖怪に、彼らが征服した後の人間世界との自由な行き来を約束して……。
 多くの虐げられた妖怪は、宇宙人と人間が入れ替わっても同じと考えています。ならば、自由な行き来を約束している宇宙人に、新しい人間になって貰った方が良いのではないかとも……」
「ほう……」
「でも、私はそれを信じません。
 宇宙人に反対する私たちは、宇宙人と闘おうと考えています。
 私たちはご覧の通り、人間ほど無力ではありません。でも、宇宙人との闘いは、私たちにも未知の領域なのです。そこで、お願いなのですが、宇宙人退治の専門家とも言うべき有希ちゃんのお父さんに、是非、協力をお願いしたいのです……」

 純一は、沼藺(ぬい)の「宇宙人退治の専門家」と言う台詞に、「僕が宇宙人退治の専門家ねぇ」と、思わず苦笑いを漏らしてしまう。
 風花はそれを侮蔑と取り、憤慨していたが、沼藺(ぬい)はそれでも「駄目でしょうか?」と再度の懇願をする。純一はそれに、少し考えてから、ひとつの提案をしてきた。
「分かりました……。でも、私はもう現役を引退した身です。私の替わりに、有希が協力すると云うことではどうでしょうか?」
 そして、有希の方を向くと、「お前、少し学校を休んで、冒険でもしてみないか?」と声を掛けたのである。

 流石に、これには、風花も怒りを爆発せずにはいられなかった。
「新田さん! 姉の言葉を馬鹿にするにも程があります! 姉がどの様な身分なのかご存知ないでしょう? それを、ここまで腰を低くしてお願いしているのに、子供の遠出や、遠足の様に……。不真面目すぎます。あまりに無礼です!!」
「僕は真面目ですよ。有希が能力(ちから)を取り戻せば、僕などより遥かに強い……」
 今度は美菜が、純一に向かって、別の意味で怒りの言葉を口にする。
「パパ、有希は人間なのよ! あなたと違うの! 宇宙人との闘いなんて……」 

 だが、純一は美菜に向かい、諭す様にその説明を始めた。
「ママ、有希はパパの子なんだ……。その時点で、有希が望まなかったとしても、結局、闘いは避けられない……。今回の様に……」
「……」
「僕たちだって、宇宙人と闘ってきたじゃないか。人間とか悪魔とか関係なしに……。
 有希も人間とか悪魔とか関係ない……。
 だったらもう、有希自身の力を開放してやってもいいんじゃないか?
 今回の様な時だって、力が戻っていれば、有希は危険なことは無かった筈だよ。
 もう、有希は立派な大人だ。友達や僕たちに、理由もなく攻撃する様な無分別なことは絶対にしない……。信じてやってくれないか? 僕たちの娘の有希を……」

 美菜は考えた……。
 考えたと云うより、自分を納得させる時間が必要だった。
 確かに今回の様な場合、純一の様な力があれば、危険など全くない。
 それに彼女自身、もう有希と本気で喧嘩することなど無いだろう……。
 第一、悪魔の力など無くたって、無分別であれば、包丁でも何でも使って、母親を殺すことなど誰でも簡単に出来るのだ……。

 有希は……、決して無分別な娘じゃない。もう、彼女の力を開放すべき時だ。

「分かった。悪魔の力、開放していいよ。でも……、昔、有希に言ったよね……」
「うん、覚えている。私は人間とか、大悪魔とかの前に、ママの子だもん」
「よろしい。それが分かっているなら……」

 純一は、その言葉を聞いて、有希の瞳を見つめた。そしてゆっくりと、左手を有希に向ける。有希も純一を見て大きく頷く。

 次の瞬間、家が崩れるかと云う程の轟音が聞こえた……。
 確かに、そう、ここに居る全員は感じた。
 しかし、何の音もせず、何の振動もなかった。有希は何事も無かったかの様に涼しい顔をし、純一は満足そうに、にやりと左の口角を上げていた……。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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