有希の冒険 父、叔母、そして母(4)

文字数 1,945文字

 闘いの最中、耀子は有希に『反重力アッパー』の原理を説明を始めた。

「今のは拳の質量を増やし、その反動で上昇する作用を利用した攻撃よ。質量を増やしつつ、上昇エネルギーを得る。無からエネルギーを生み出した様に見えるでしょう?
 でも、それは誤りなの……。
 その上昇は、この『質量操作』の開放時に下降することに依り、プラスマイナスゼロとなって、エネルギーは保存されるわ。
 今回の場合は、攻撃に使われ上昇量は無くなるのだけど、下降はそのまま行われる。このエネルギー差分が、今、有希ちゃんに与えられた衝撃のエネルギーになるって訳よ」
「そんなこと、どうでもいいわ……」
「そうではないの。相手の技、自分の技、どちらもだけど、技の本質を理解することは、とても大切なことよ……。
 その本質が分かれば、技の弱点が見えて来る。そうすれば、対抗策も見えるし、相手がどう対処するかも事前に予想できるのよ。
 唯、闇雲に闘っているだけじゃ駄目……。
 さてと、そろそろ再開してもいいかしら? お腹の痛みも治まったでしょう?」

 耀子はそう言うと、再び『高速移動』からの掌打の攻撃を再開した。有希も『ツインサーベル』を復活させ、それを振り回して耀子に応戦する。
 魔法は『有声呪文』であれ『無声呪文』であれ、高い精神集中が要求される。今の有希には、剣を扱いながら魔法の精神集中をすることなど不可能に近い。必然、有希は耀子の連続攻撃を『ツインサーベル』などの悪魔の技で防ぐしかなかった。

 耀子は『高速移動』で有希の背後に回った。それに合わせ有希が振り返った時、一瞬のうちに近づいていた耀子の『腕ランス』が、有希の腹部をマッハの速度で襲う。
 これは腕から先の皮膚を円錐形の馬上槍の形にして硬化させ、相手の身体を貫く技だ。
 これは間一髪、『皮膚硬化』で有希は防ぐことが出来た。しかし、驚いたことに耀子の『腕ランス』は、有希にとっては指で突かれた程度の衝撃しかない……。

「この攻撃は軽いから、パパの『腕ランス』と違って、身体ごと吹き飛ばされる様なことなんか、ないんだ……」
 確かに『高速移動』からの『腕ランス』では、腕の質量も小さくなっているので、有希へのダメージは殆どない。
 有希は少し考えた。
「質量操作の技の本質……。
 重くすると、威力は増すけど動きが遅くなる。軽くすると、威力は減るけど動きが速くなる……」
 有希は久しぶりに、耀子の体をサーベルで捉えた。それは叩いただけだったが、耀子は遠くに吹き飛んだ。だが、サーベルにも手応えが無い。恐らく、耀子にもダメージは無かったに違いない……。
「自分の質量を小さくすると、相手の攻撃に飛ばされ易くなる。但し、ダメージも受け(にく)くなる……」

 耀子が『高速移動』で戻って来た。有希は自分の体重を軽くして後方に跳ぶ。
「体重を軽くすると、動き易く止まり易い。つまり慣性が小さくなる。その代わり、空気抵抗の影響が、慣性力と比較して大きくなる……。そうか、そう云うことか!」

 耀子は有希に『高速移動』からの『灼熱掌打』を食らわせようとする。しかし、有希の手前1メートルより近づくことが出来ない。
 それだけではない。その場でクルクルとスピンさせられ、そのまま独楽の様に弾き飛ばされて行く。
 耀子は再び有希に近付こうとするが、これも弾き返された。
 一方、有希の身体は、後光が差すように光り輝いて見える。この間、有希は攻撃の為の呪文を準備し、完成させていたのである。

「光背光矢!」
 有希の叫びと共に、有希を包んでいる光のベールは、ハリネズミの針の様に1本1本が光の矢となって耀子に襲い掛かる。
 これには耀子も『魔法の盾』を準備する間がなかった。光の矢の殆ど全てが、耀子の体中至る所に命中して行く。

 耀子は崩れた。そして、何とか体は起こしたものの横座りの様な状態で、荒い呼吸のまま立ち上がることが出来ない。
 その苦しい息の中、耀子は呟く様に有希に語り掛ける……。
「そうよ……。あの技は、空気抵抗を無効にすることが技のキモになっている……。
 それは『気流操作』で始めて実現でき、場合によっては『気流操作』だけで移動することもしているわ。
 だから、気流を乱しさえすれば、あの技は防げるの。つまり、あの技は気流を操れる私たちにしか出来ない技であると同時に、私たち相手には絶対通用しない技なのよ……」
 耀子の説明に、有希が技を見破った経緯を答える。
「パパは沼藺(ぬい)さんとの闘いで、気流のバリアを使っていた……。
 あれは狐火を防ぐためのものだったけど、『質量操作』で軽くなった耀子叔母さんも、これで防げるって思ったの……。枯れ葉が、北風に吹き飛ばされていく様に……」

 それを聞く耀子の表情は、何故か、嬉しそうに輝いていた……。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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