ミメの伝説 アルウェン消滅(6)

文字数 1,685文字

 アルウェンは、その空間は頭の核から遺伝子送出口までの単なる通路と考えていた。そして、これまでのファージとの戦いでは、それは決して間違いではなかった。
 但し、このファージは違っていた。この変化は、このファージが獲得したある種の耐性と云うものだったのかも知れない。

 胴の円筒は、単なる空洞ではなく、侵入者を排除する為に用意された、ファージの迎撃エリアと変わっていたのである……。

 円盤の底を潜り抜け、円盤に4人が入り終えた瞬間、突然、敵の光線砲が彼らに襲い掛かってきた。
 アルウェンは巨大化して盾となり、その光線砲を自身の身に受ける。
 だが、光線砲はそれでも防ぎきれず、アルウェンの身体を貫き、他の3人にもダメージを与えようとしてきた。
 強力な熱光線が三悪魔を襲う。
 しかし、アルウェンの創ったその一瞬のディレイだけで、彼らには充分な余裕となった。
 そう。三悪魔は各々(それぞれ)端へと大きく跳び、光線砲の影響範囲からは、それで脱出することが出来たのである……。

「レビアタン?!」
「違います。あれこそが、ファージの遺伝子なのです」
 元の大きさに戻ったアルウェンは、苦しそうに穴の開いた腹部を左手で押さえ、反対の手を前に出し攻撃魔法を放つ。
 その細長い海龍(レビアタン)に似た怪獣は、アルウェンの最後の魔法により、凍結し、粉々に粉砕された。

 次の瞬間、三悪魔が倒れ込んだアルウェンの所に集まり、耀子が彼女を抱き起こす。そして、息も絶え絶えのアルウェンに向かい、純一少年があまりに分かり切ったことを尋ねた。
「大丈夫ですか? アルウェンさん……」
「抜かりました……。残思念の(コア)を破壊されてしまった様です……。
 あの頭部のシャッターを通過する迄は、消滅する心算などなかったのですけどね……。
 こんな所にまで、番人の遺伝子が飛び出しているなんて、私にも想定外でした……」

「おい、どうするのだ? おまえが死んでしまっては、これから、どうしたら良いのか、分からないではないか? 死ぬな!!」
 盈が涙を浮かべながら、アルウェンに(すが)り付く。だが、アルウェンは大したことないとばかりに小さく笑った。
「残思念は死にません。と言うか、最初から生きていません。新しい肉体となる者を見つけて取り憑けば、覚醒するだけで、再び実体を得ることが出来ます……」
「だが……、それでは、もう間に合わないのではないか?」
「たぶん大丈夫です。それに、することは簡単ですから……。
 天井の核の部分は、遺伝子が降りて来れたのですから、抵抗なく侵入することが出来るでしょう。
 それで戦い、戦いが終わったら、脱出の際は転移先をイメージすることが出来るでしょうから『瞬間移動』が使えます。皆さんがイメージ出来る場所に転移してくださいね。
 あ、そんなことしなくても、皆さんは、時空の狭間を使って、そこから自由に移動できるのでしたっけ……」

 盈がアルウェンに問う。
「することは簡単って……? 私たちは何をすれば良いのだ?」
「はい、簡単です。天井を抜けたら、遺伝子に『極光乱舞』と『超無窮動』を撃ちまくる。唯、それだけのことです……」
「おい、それだけって……。大体、何匹いるのだ、遺伝子って云う怪獣は?」
「500強だったと思います。基本は光線砲と尻尾などの打撃攻撃しか出来ません。大きさも、レビアタンと同じ程度、1000メートルも無いでしょう……」
 耀子が絶望的な声を出して上を向く。
「無理よ。そんな沢山……。『極光乱舞』をそんなには撃てない……。
 それに、あの大きさの怪獣全体に、『極光乱舞』の魔法力を作用させることなど、私には出来る自信がないわ……」
「やってください……。無理かどうかは、結果が出れば分かります。やる前に決めてしまわない様に……。それと私には、最後の切り札があります。私は1人の大悪魔。彼女に闘いに加わる準備をして貰っています。そして今、彼女を召喚しました」
「何ですか? 最後の切り札ってのは? 僕たちが、脅威の検知も出来ないレベルの悪魔を呼んだのですか? そんなんで……」

 最後の純一の質問に、アルウェンは何も答えてはくれなかった……。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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