有希の冒険 再戦! 純一対沼藺(6)

文字数 1,365文字

沼藺(ぬい)に、花を持たせてやる心算だったんだけど、ここまでボコボコにやられると、流石にちょっと悔しいな……」
 そうは言ってみたものの、純一は中々反撃の糸口が掴めない。そう云う意味では、ここまでは、沼藺(ぬい)が上手く立ち回っていたと言えるだろう。

 純一は不本意ながら、空中での接近戦を余儀なくされている。だが矢張り、この闘いは彼に分が悪過ぎる。実際、純一は段々と沼藺(ぬい)に押され、このまま刀を合わせ続けると、何合か後には、妖樫の一撃をその身に受けてしまうであろう。そうなれば……。

「兎に角、妖樫は厄介だ。あの剣での攻撃を受けると、こっちも無傷ではいられないからなぁ。仕方ない、何とかするか……」
 純一はそう言うと、右の妖樫の打ち込みを受けた左手の指サーベルを元の皮の硬さに戻し、鞭の様に妖樫に指の皮を巻き付けた。そして、その状態のまま、彼は『重力質量変換』を行う。
 シラヌイはイチかバチかの打ち込みを、もう一方の妖樫で行った。しかし、そこに純一はもういない。彼は通常の数倍の重力加速度で落下していたのだ。

「自分の重力を増加したの?」
 シラヌイがそれに気付いた時、もう彼女に純一の攻撃を防ぐ余裕はなかった。彼女の体は手に持った妖樫ごと、ピンと張った純一の指ロープに、一気に地上へと引きずり降ろされてたのだ。
 それでもシラヌイは、地面に激突する寸前に妖樫を持った手を外し、その加速のままでの墜落だけは避けることが出来た。一方、純一はそのまま墜落し、地面に大穴を開けている。実は闘技場(アレーナ)の下には地下室があり、剣闘士控えの間になっていたのだ。

 やっとのことで大穴から這い出した純一は、次の攻撃の為に構えをとるシラヌイを左手で制し、彼女との会話を始めた。
「ちょっと、休憩……」
「妖樫はどうしたの?」
「奴は大やけどを追って逃げて行ったよ。当分の間、うんうん唸っているだろうね。これで右手の無い僕と、双剣の片方を失った沼藺(ぬい)。片手対片手。やっと互角だな……」
「上手くやられたわね……。でも、次は無いわよ!」
「ところで沼藺(ぬい)、そんなフルスロットルの連続攻撃を続けて、長期戦になったら、体力が持たないのじゃないのか?」
「あら? 長期戦になって困るのは、要君の方じゃない? だって、もう生気が足りなくなっているのじゃないかな?」
「そうか……、それは考えてなかった……。沼藺(ぬい)、悪いけど、少しだけ待ってくんないかなぁ? 生気を補充するから……」

 純一はそう言うと、シラヌイの目の前から消えた。彼は有希の前に『高速移動』していたのである。
「有希、悪いが少し生気を借りるよ……」
「ちょ、ちょっと……?!」
 純一は懐にあったお守り刀、韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を取り出し、見えない十字架に磔となっていた有希の額へとお守り刀を押し当てた。
 韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)には純一と耀子の琰が仕込まれている。それで有希の持つ、悪魔能力と生気を吸い取ることが出来るのだ。

 霊剣と有希は眩しい光に包まれる……。
 しかし、純一は完全に有希の生気を吸収したりはしなかった。彼は途中で韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を有希の額から外していたのである。
「有希、覚えて置くといいよ……。
 人間のいない世界では、悪魔が生気を補給するには、琰を使って仲間の悪魔から吸い取るしかないってことをね……」
 そう言うと、純一はあっさりとシラヌイとの闘いへと戻って行ったのだった……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み