悪魔たちの休日(4)

文字数 1,759文字

 さて、耀子たちの話のネタにされていた鉄男、新田純一だが、彼は休日だと云うのに、よそ行きの服を着せられ、甲斐甲斐しく部屋の掃除をする妻の美菜を眺めながら、足元が掃除し易いようにと、ソファの上で猫の様に(たたず)んでいた。

「美菜、別にそこまでしなくても……」
「あなたはそれでいいかも知れないけど、有希が恥ずかしいんだからね。あなたも少しはちゃんとして下さい。彼が家にいる間だけでも……」
「はぁ……」
 今日は一人娘の有希が、初めて男友達を連れて来る日。と言っても、純一は既に彼と面識があり、別段どうと云うこともない。

 有希の彼氏と云うのは、あのレナルド君。彼も人間界の勉強をし、あの時よりは遥かに人間常識を身に着けている。だから、いきなり有希に『結婚してくれ』などと求婚してくることは、流石にもうないだろう。
 ま、最終目的がそこにあるのは、恐らく間違いなかろうが……。

 それでも、レナルドは人間ではないので人間界では時に奇妙な行動を取ることもある。そんな常識外れな点は、彼の両親がフランス生まれのフランス人だと云うことで、これまでは誤魔化してきたらしい。
 確かに彼の金髪と掘りの深い顔立ち、そして、すらっとした容姿は、日本人と呼ぶには相当違和感があった。
 但し、それほどフランス語が堪能と云う訳でも無いので、一応、レナルド自身は、日本で生まれ育ったと云うことにしているらしいのだが……。

 美菜が掃除を終わらし暫く経ってから、やっとドアチャイムが鳴った。美菜は、そそくさと小走りで玄関の方へとお客様を出迎えに行く。そして彼女は、有希とその連れの友人を伴って、リビングへと戻ってきた。

「パパ、彼がレナルド。私の友達なの」
 有希が、純一に彼氏を紹介する。
「いらっしゃい。まぁ立っていないで、腰掛けたらどうだい?」
 緊張の面持ちのレナルドに、純一も一応それらしい演技で答える。美菜は本当に緊張している様子であった。レナルドは遠慮する素振りを少し見せてから、有希に促されてソファに腰掛ける。
「ピ、ピアチェーレ!」と美菜。
「ピアチェーレ・ア・ミオ」とレナルド。
「ママ、それフランス語じゃないよ。レナルドも……」
 それを聞いて、純一は(あき)れ、有希は口に手をあてて笑っている。
「す、すみません。ぼ、僕、フランス語、苦手なんです」
「あら、ドイツ語だっけ? もう何十年も前なのよね、第二外国語を習ったの……」
 レナルドと美菜は各々(それぞれ)に、あり得ない間違いをした言い訳をする。
 いや、それはイタリア語だろう……。などと純一は、敢えて指摘したりはしない。
 まぁそれで緊張も解れたのか、レナルドにも少し笑みが(こぼ)れた。

 純一は隠すことも無いだろうと思うのだが、有希やレナルドは、彼の正体が妖狐だと云うことを美菜には話したがらなかった。
 2人は、彼の生まれや少年期を(あらかじ)め創作してあったので、今回、美菜からの質問には、その設定に従って答えている。
 だがそれも、そろそろ危なそうだ。
 そう感じた純一は、一通りの会話が終了すると、彼らに有希の部屋に行くようにと勧めた。2人も危ないと思ったのだろう。助かったとばかりに、勧めに従って、さっさと有希の部屋へと上がって行く。
 ま、少しは感謝して欲しいものだな……。
 純一はそう心の中で呟いた。美菜の方は少し残念そうであったが……。

 その後、純一は、彼らが有希の部屋に居る間、「彼は誠実そうだ」とか「結構ハンサムだ」などと云う、美菜のレナルド評をずっと聞かされ続けることになってしまう。
 そして、レナルドが帰る時刻となり、有希がレナルドを駅まで送ってから家に戻って来る間までも、延々と美菜のレナルド評は続いたのであった……。

 勿論、純一は、レナルドが誠実な男だと云うことは、彼に憑依した時から知っている。
 そして……、
 それで彼が有希を愛してくれるのであれば、後はどうでも良いと考えている。
 2人には、2人の人生が待っているだろうし、あの2人なら、きっと上手くやっていけるだろう。自分たち夫婦が、どうにかやっている様に……。

 仮に……、腕輪を着け続け、悪魔を全て捨て去ったとしても、呪文を忘れ、魔法を全く使えなくなったとしても、有希は決して無力な存在ではない。
 有希は人間としても、類稀(たぐいまれ)な精神を有した、既に立派な大人の女性なのだ。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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