ミメの伝説 現在(いま)を超える者(4)

文字数 1,570文字

 その救世主は、直ぐに三悪魔の前までやって来た。成程、救世主は女性……。それも若い女性であった。
 彼女は旧知の仲の様に、満面の笑みを浮かべている。しかし、盈も、耀子も、そして純一少年も、彼女が誰だか分からない。確かに、何処かで会った様な、見覚えのある顔立ちなのだが、どうにも彼女が誰だったのかが思い出せない……。

「君は一体? 君が救世主なのか?」
 救世主……。そう彼女こそ、最強の大悪魔、新田有希その人。
 有希は表情を真剣なものに戻すと、彼女の父に叔母の状態を指摘する。
「話は後……。早くしないと、耀子さんが生気切れで危ないわ」
 有希の指摘に、純一少年は思い出した様に耀子を見る。彼の妹は目に隈を作り、高熱に浮かされた様に激しく息をしていた。
「耀子、もう帰れ! 救世主が来たから、1人位減っても大丈夫だ!!」
 だが、それは救世主の有希が否定する。
「駄目よ。ファージを倒すのには、あなたたち3人、全員の力が必要なの!」
「だが、この儘では……」
 その言葉が終わる前に、有希は純一少年の懐から韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を取り出して、彼の額に押し当てた。この行動に純一少年だけでなく、盈も驚きのあまり言葉を失くしてしまう。
 それはそうだ。(そもそも)、純一少年の懐に韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)があり、それに彼と彼の妹の琰が組み込まれていることを知る人間は少ない。仮に知っていたとしても、それを彼の額に当てがって、2人に生気を分け与えるなどと云う発想は、早々思い付くものではない。

 彼と韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)の輝きが治まると、有希は、彼の額からその守り刀を引き離した。
「これで耀子さんは大丈夫。純一さんは自分に憑依し直せば、蘇生出来るわよね……」
 有希はそう言って大きく息を吐く。耀子もそれで生気切れから解放されたらしく、無言ではあったが、眼光鋭く目を見開いていた。

「無茶する奴だなぁ……」
 純一少年が呆れた様に呟くと、有希は笑ってこう答えた。
「だって、耀子さんの状態だと、時空移動しても、時空の狭間で生気が尽きそうだったんだもん。それに、純一さんは『危険察知』の能力が低いから、生気を少し余していそうだったしね……。
 私の生気を分けたかったんだけど、諸都合があって、私の悪魔能力を2人に渡す訳には、ちょっと行かないのよ……」
 そう、今『読心』の悪魔能力を彼らに渡す訳には行かない。そうしてしまうと、因果関係に矛盾が生じ、歴史が固定出来なくなってしまうらしいのだ。

「それにしても……、良くそんな発想が浮かぶなぁ。韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を使って、大悪魔間で生気の受け渡しをするなんて……」
「大切な人に教わったのよ……」
 有希はそう言って、ニッコリと笑った。

「ありがとう……」
 耀子は探る様に有希に礼を言う。だが、それに有希は笑みを浮かべるだけで、正体を知ることは耀子には出来なかった。
 しかし、正体は分からずとも、脅威を感じない以上、味方であることは間違いなく、その強さは脅威がなくともビンビンと感じられる。それに、あの魔法力を見せられれば『危険察知』など無くとも強者であることは疑うべくもない。
 これこそ救世主だ……。
 耀子もそう考えるしかなかった。

「さ、さっきの生気補給は急場凌ぎに過ぎないわ。生気をちゃんと補給できて、仮眠も取れる場所に移動しようよ」
「そんな場所、あるのか? だが、戻って来れなければ意味が無いのだぞ?!」
 盈は有希の言葉に疑問を投げ掛けた。だが、有希は何事もないと笑みを見せる。
「大丈夫。そこからならファージが見えるもん。行き先が見えれば簡単に『瞬間移動』が出来るでしょう? それに、そこに行くのだって、私の知る人がいる場所だから簡単よ」
「そうか。お前が言うなら信用しよう」

 有希は3人を集めると、数語で『瞬間移動』の呪文を完成させ、自分も含めた4人を、その『生気を補給できる場所』へと一旦退避させたのである。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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