ミメの伝説 現在(いま)を超える者(4)
文字数 1,570文字
彼女は旧知の仲の様に、満面の笑みを浮かべている。しかし、盈も、耀子も、そして純一少年も、彼女が誰だか分からない。確かに、何処かで会った様な、見覚えのある顔立ちなのだが、どうにも彼女が誰だったのかが思い出せない……。
「君は一体? 君が救世主なのか?」
救世主……。そう彼女こそ、最強の大悪魔、新田有希その人。
有希は表情を真剣なものに戻すと、彼女の父に叔母の状態を指摘する。
「話は後……。早くしないと、耀子さんが生気切れで危ないわ」
有希の指摘に、純一少年は思い出した様に耀子を見る。彼の妹は目に隈を作り、高熱に浮かされた様に激しく息をしていた。
「耀子、もう帰れ! 救世主が来たから、1人位減っても大丈夫だ!!」
だが、それは救世主の有希が否定する。
「駄目よ。ファージを倒すのには、あなたたち3人、全員の力が必要なの!」
「だが、この儘では……」
その言葉が終わる前に、有希は純一少年の懐から
それはそうだ。
彼と
「これで耀子さんは大丈夫。純一さんは自分に憑依し直せば、蘇生出来るわよね……」
有希はそう言って大きく息を吐く。耀子もそれで生気切れから解放されたらしく、無言ではあったが、眼光鋭く目を見開いていた。
「無茶する奴だなぁ……」
純一少年が呆れた様に呟くと、有希は笑ってこう答えた。
「だって、耀子さんの状態だと、時空移動しても、時空の狭間で生気が尽きそうだったんだもん。それに、純一さんは『危険察知』の能力が低いから、生気を少し余していそうだったしね……。
私の生気を分けたかったんだけど、諸都合があって、私の悪魔能力を2人に渡す訳には、ちょっと行かないのよ……」
そう、今『読心』の悪魔能力を彼らに渡す訳には行かない。そうしてしまうと、因果関係に矛盾が生じ、歴史が固定出来なくなってしまうらしいのだ。
「それにしても……、良くそんな発想が浮かぶなぁ。
「大切な人に教わったのよ……」
有希はそう言って、ニッコリと笑った。
「ありがとう……」
耀子は探る様に有希に礼を言う。だが、それに有希は笑みを浮かべるだけで、正体を知ることは耀子には出来なかった。
しかし、正体は分からずとも、脅威を感じない以上、味方であることは間違いなく、その強さは脅威がなくともビンビンと感じられる。それに、あの魔法力を見せられれば『危険察知』など無くとも強者であることは疑うべくもない。
これこそ救世主だ……。
耀子もそう考えるしかなかった。
「さ、さっきの生気補給は急場凌ぎに過ぎないわ。生気をちゃんと補給できて、仮眠も取れる場所に移動しようよ」
「そんな場所、あるのか? だが、戻って来れなければ意味が無いのだぞ?!」
盈は有希の言葉に疑問を投げ掛けた。だが、有希は何事もないと笑みを見せる。
「大丈夫。そこからならファージが見えるもん。行き先が見えれば簡単に『瞬間移動』が出来るでしょう? それに、そこに行くのだって、私の知る人がいる場所だから簡単よ」
「そうか。お前が言うなら信用しよう」
有希は3人を集めると、数語で『瞬間移動』の呪文を完成させ、自分も含めた4人を、その『生気を補給できる場所』へと一旦退避させたのである。