ミメの伝説 現在(いま)を超える者(3)

文字数 1,421文字

 生気枯渇の不安を感じていたのは、純一少年だけではない。実は耀子も、それについて、この旅の当初より危惧をしていたのである。

 彼女は『危険察知』の感度が高く、脅威を感じ易い。また、脅威から得られる情報量も純一少年より遥かに多かった。だが、その反面、生気の消費量も彼の比ではない。結果、生気の消耗は、純一少年よりも一層加速されてしまうのである。
 この為、耀子にとって、生気枯渇は常に警戒しなければならないことであった。
 だがしかし、魔封環を着けて闘うことは出来ない。閉じられた空間なので忘れがちだが、ここは真空の宇宙空間なのだ。人間になったら、その時点で即死してしまう。

「これはやばいわね。場合によっては、時空を渡って、生気の補充に戻なければならないかも……。でも、その後、宇宙を飛ぶファージの中に、正確に戻って来れるかしら?」

 勿論、別の場所で戦っていた盈も、その問題は認識していた。
 呪文も足りない。生気も足りない。こんな状況は想定外だ。敵の半数以上はアルウェンが倒すことを期待していただけに、彼女が本番前に消滅したのは、盈にとって大誤算以外の何物でもなかった。
「何か手はあるのか? もう、一旦、地球に戻るしかないのか……?」

 そんな時、盈の傍に2人の仲間が戻ってきた。盈にも2人の表情から、もう大分危ない状態であることが理解出来る。特に耀子の生気不足は手に取る様に分かった……。

「おい、どうした? 目の下に隈など作って……。もう呪文切れか?」
「ちょっとね……。あと、ある限りの『極光乱舞』を撃って終わるから、それまで休憩して呪文を覚え直してくれるかしら……」
「耀子、お前……。もう、帰れ!」
「馬鹿言わないでよ……。あと少しなのよ。私だけ仲間外れなんて狡いわ……」
 純一少年も盈も、敵があと少しでないことなど当然分かっている。耀子は生気の残りの少ない自分が楯となって、2人に託そうとしているのだ。しかし、それを2人は敢えて止めようとはしなかった……。

「そうか、耀子が帰らないなら仕方ないな。折角、純一と2人だけで逢瀬を楽しもうと思っていたのに、実に残念だ!」
「盈さん、どうぞご自由に……。別に見ませんよ。そんな小父さんとお婆さんのラブシーンなんて……、流石にちょっと見たくないですからね……」
「そうか……。じゃ、頼んだぞ、耀子」

 純一少年と盈が、耀子に護衛を頼んで休息を取ろうとした丁度その時だった。遥か遠くの遺伝子の脅威が、次々と消滅していったのは……。
「なんだ?」
「分からないですね。でも、敵が再生しない所を見ると、僕たちと同じ様に正統的な手順で倒しているのでしょうね……」
「盈さん……。あれが……、救世主じゃないかしら? アルウェンの言っていた……」
「それにしても早い。あんなに速く、呪文を唱えられるものなのだろうか……?」

 盈の疑問は尤もである。だが、その謎は、救世主が彼らに近付いて来ることで、彼らにも簡単に解くことが出来た。
 救世主は『極光乱舞』を唱えながら、その準備が完了すると、その魔法を撃つ前に次の『極光乱舞』を唱えていたのである。そして、裏呪文として、無声呪文の『超無窮動』を自動発動させていたのだ。

 それは将に、『不涸の泉』学派ならではの呪文の使い方……。即ち、救世主は彼らの同門であることを示している。
 そして、それと同時に、
 救世主が、純一少年たちより、遥かに高レベルの魔法使いであることの、何よりの証しでもあった。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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