有希の冒険 オサキの里(5)
文字数 1,725文字
オサキの流儀では、食事は一般に家族そろって炉端で摂る……。とは言っても、真久良にはもう家族がいない。だから、友人でも来ない限り彼の食事は通常1人きりだ。
有希と真久良は2人で炉端に座り、その日の昼食である岩魚の塩焼きを齧っていた。勿論、有希が残念がる程、焼き魚は粗悪な代物ではない。
「有希さんと云いましたね。あなた、自分の立場をどう考えているのですか? 私は人間嫌いで、
もし、私があなたに襲いかかったらどうする心算ですか? この村の連中は、誰1人、あなたを助けたりしませんよ……」
「あなたは、そんなことしないもん……。それに、耀子叔母さんも言ってたよ。真久良さんって、本当は優しい人なんだって……」
「誰です、耀子さんって……? 知りませんね、私は……」
その時、真久良の家に、1匹の狐が急を告げにやってきた。
「棟梁! 大変です。人間に子供が捕まって危ない状態です! 早く……?!」
その使いも、有希の姿を見て言葉に詰まった。独身の筈の自分たちの棟梁が、飯を女性と一緒に食べている。それも、女性は宿敵の人間そっくりだ。
「あ、あの~」
「今行く! 案内しろ!!」
真久良は使いの狐の困惑を無視し、そう返事をすると、有希に一緒に来るように誘ってくる。
「どうですか? 有希さん、あなたたち人間が何をやっているか、見てみますか?
「分かった。早く行きましょう!」
有希は最後に岩魚の頭を丸噛りすると、すっくと立ち上がった。
斯うして、有希は図らずも真久良たちと共に子狐救出に向かうことになったのである。
使いに来た狐の後について、数キロほど走ると、有希には比較的見慣れた西部開拓時のログハウスの様な建物が見えて来る。どうやら、それが狐の子供を捕えた者たちの狩猟小屋の様だ。
小屋の近くまで来ると、有希たちは真久良の指示で一旦直ぐ脇の茂みに隠れる。真久良と使いに来た狐は、先ず敵の動向を眺めることにしたらしい……。
そこで茂みの隙間から有希が目を凝らすと、敵の小屋の脇には金属製の金網の檻があり、確かに子狐が1匹囚われていた。
だが……、ここは妖怪層の筈だ。
理由は分からないが、ここにも人間がいて、小屋を
有希の怪訝そうな表情に、真久良は声を潜めて有希に説明する。
「奴らは人間界から
「何でそんなことを?」
有希が驚いて尋ねる。
「人間世界では、色々な奇妙な出来事が起こることがあります。すると、それが偶然にも関わらず、人間は何か神秘的な要因の為にそれが起きたと信じるのです。
そうした時、祈祷師と呼ばれる連中がお祓いと云うものを行うのですが、それだけではそのお祓いが有効であったか分かりません。
そこで、そのお祓いを行ったあと、妖怪を1人犯人とし、そいつが原因で、お祓いによって退治したと言い触らすのです。
そうすれば、仮に原因が別にあって禍が消えず、お祓いの意味がなかったとしても、前の妖怪は退治したが、別の妖怪が現れたと言って誤魔化すことで、その
つまり、原因であろうとなかろうと、彼らには生贄の妖怪が必要で、その需要の為、奴ら妖怪ハンターは我々を狙っているのです。
分かりましたか? それが人間と云うものなのです……」
「酷い、酷過ぎるわ! 私、あの子を助けてくる!!」
有希は茂みから姿を現すと、そのまま無造作に金網の方へと進んで行った。
使いの狐は「棟梁、罠に決まってるじゃないですか。行かせていいんですか?」と真久良に問い質す。しかし、使い狐が心配顔なのに対し、真久良は何も答えはしない。彼は唯、平然と有希とその状況を見守っていただけだったのである。