有希の冒険 ヌルデ村の戦い(2)
文字数 1,402文字
「人間たちが、ここに攻めてくるのさ。あんたらが、2人も人間を殺したから……。ま、その復讐って訳だ……。100人程度の妖怪ハンターが、武器を持って、この村へと向かって来てるそうだぞ……」
「私のせい?」
「ああ、そうだ……。真久良だけなら、奴らを化かしてレナルドを助けることぐらい出来ただろうに……。お前さんが何も考えず、人間の罠に突っ込んで行ったせいだな……」
「城兼! 黙れ!!」
真久良はそう叫ぶ。しかし、城兼はそれでも黙りはしない。
「この村は政木の指図で、堀どころか満足な城壁もない。どの方角からでも自由に攻め込むことが出来る。
奴らは仮にも妖怪ハンターだ。50もいれば、ここを攻め入るには充分だろう。
確かに、ここには100近い住民はいる。しかし、大半は非戦闘員だ。闘うことなど何も出来ず、奴らに殺され、攫われていくだろうな……」
有希は自らの唇を噛んだ。それをチラと眺め、城兼は話を続ける。
「だが、その前に、お前さんと棟梁の首を差し出せば、人間はここに攻め込むのを止めると通告してきた。狐の死骸に刺さった矢文でな……。どうするね、このまま政木の屋敷に逃げ出すかね?」
「私の首を差し出せば、村は助かるの?」
有希のその問いには真久良が答える。
「そんなこと、ある筈ないじゃありませんか! 奴らは、私たちの内部分裂を狙っているのですよ!!」
「ああ、そうだ。もし棟梁が自害でもしてくれれば儲けもの……。この村は、もう無防備状態だからな。
そうならなくとも、『あいつらが死ななかったせいで、我々の村は攻められることになった……』と考える狐が一匹でも出れば、真久良の言う通り、裏切りを起こさせることも不可能ではない……」
「私、妖怪ハンターと話をしてくる……。
ここを攻めないように頼んでくる。私の命と引き換えで、なんとか……」
「無駄だろうな……。お前さんが生け捕りになろうが、嬲り殺しにされようが、奴らはここに攻め込んでくるさ……。
奴ら、復讐の為、ここを攻め込むってのは唯の口実で、本当はそのチャンスが欲しかっただけなんだ。
もし、理由も無しに村の虐殺でもしようものなら、オサキと敵対関係にある政木狐と云えども、黙ってはいられないからな……。
だが、奴らの方へ出ていくのは、確かに悪くはない。この村に立て籠って籠城戦をするのは、あまりに不利だ……」
一瞬の間があり、真久良が城兼への頼みを口にする。
「城兼、済まないが、この村の住人全てと、この自意識過剰なお嬢さんを、ヤマハゼの村に送ってはくれないか? オサキ狐の誼だ、済まないが頼む……」
「嫌だね……。このお嬢さんをこの村から送り出すってのは、かなり難儀な仕事だからな。まぁ不可能だ……」
そんなこと、城兼に言われずとも、真久良にだって有希の目をみれば直ぐに分かる。
「だったら、どうすると言うのだ?!」
「この村の住人は、確かに俺がヤマハゼの村へと送ってやろう。全員送るまでの間、少しの間、ここで待ってろ!」
「それで?」
「お嬢さんと3人で、妖怪退治屋100人の相手をしてやろうじゃないか?」
「馬鹿を言ってるんじゃない!」
「お前さん1人でするよりは、かなり賢い判断だと思うぞ……。お嬢さん、お前さんはどうするね?」
しかし、その答えは最早不要だった。有希の目は、既に闘士のものに変わっている。