有希の冒険 覚醒(1)
文字数 1,173文字
この闘い方は、圧倒的に耀公主の方に分がある……。と、有希だけでなく耀公主自身も思っていた。だが、しかし、意外にも互角、いや、お互い有効打こそ無いが、2人の表情を見る限り、寧ろ有希の方がやや押し気味に闘っている様に見える……。
それは有希が、耀子との闘いで『高速移動』の対処法を身に着けた事と、実は深い関わりがあった……。
元々、耀公主は『高速移動』と重量を増したパンチ攻撃を得意としている。だが、体重を極端に減らした『高速移動』状態では、空気のバリアを張る有希には、近づくことも、体を自由に操作することも出来ないのだ。
また、
結局、耀公主は通常の質量での闘いを余儀なくされ、それが彼女の戦闘リズムを大きく狂わせていたのである。
勿論、それだけではない……。
有希は格闘の素人なりに、効率良く闘っていたのだ。彼女は右自然体にキチンと構え、耀公主の攻撃を移動しながら受ける。それはあくまで、右自然体の構えのまま移動したに過ぎない。だが、それでも、有希は反射神経と運動能力は高い。多少、構えに隙があっても、その反射神経でカバーし、相手の攻撃を寄せ付けないのだ。
おまけに、格闘に自信のない有希は、無理に攻めることはせず、淡々と耀公主の攻撃を受け切っている。耀子などが屡々強引な攻撃を仕掛け体勢を崩しがちなのとは、有希は真逆の対応を取っていたのだ。
耀公主は攻め
耀公主にとって、これは酷く屈辱的な状況だった。周りから弱い大将と見られるのも屈辱であったし、自分と有希との闘いが、
だが、それは所詮個人の屈辱に過ぎない。
確かに、観客のブーイングも耀公主には不快であったが、何よりこの状況では、有希の覚醒など全く覚束ない。今はそれが一番の問題だった……。
耀公主は有希から離れて、少し距離を取った。接近戦を自ら避けるのは、彼女にとって、これも相当の屈辱だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
有希は距離を取った耀公主を見て、両手を天に翳した。
「いいだろう……。
受けて立とうではないか……」
耀公主はそう呟くと、彼女も有希と同じ様に両掌を上に向けた。
2人の両手が上昇気流を造り上げていく。
そして、呪文によって冷却された上空の大気と触れ合って、気流の水蒸気は水滴に変わり、やがて氷滴へと変化していく。その氷滴は巨大な雲となって、大空という巨大な池に墨汁を流したかの様な、暗黒の大入道を形作っていく……。
数分の後、『爆雷豪雨』の準備は整った。