有希の冒険 最後の切り札(2)

文字数 1,289文字

 美菜の姿をした月宮盈は、有希に、この闘いの意味について説明を続ける。

「私たちは勝利した。しかし、それは仮契約の様な勝利なのだ。未来に於いて、その大悪魔がアルウェンの力を覚醒させ、アルウェンと同等の者として、アルウェンの召喚に応じ、その闘いに参加し勝利すると云うのが本契約の条件であり、そうして初めて歴史が固定されるのだ。分かるか? 最強の大悪魔、有希よ」
「そんなこと言われても、私、そんな力持ってないもん!」
「ああ、お前は覚醒してないからな……。
 恐らく、覚醒することで、有希は特別な力を得るのだろう。
 勿論、覚醒とはどう云う状態なのか定かではない。ま、覚醒しただけでアルウェンと同等になるのであれば良いがな……」

 盈は口にしなかったが……、
 アルウェンと同等になると云うことは、恐らく、有希の意思は失われ、アルウェンが有希の精神を乗っ取り、有希の身体を自由にすると云うことだと盈は考えている……。

「何れにしても、私たちはお前を覚醒させなければならなくなった」
「……」
「だが、お前の覚醒は敵を倒す必要条件だが、十分条件ではないのだ……。
 仮契約では、万全なお前が加わったから勝利できたが、今の儘のお前が覚醒したとして、勝利できる保証は全くない。
 今の有希ではあまりにも力不足だ。
 魔法も完全に思い出せていない。悪魔の能力の使い方も不十分だ。格闘術など、お世辞にも上手いとは言い難い……。
 だから、私たちはお前を覚醒させるだけでなく、少しでもレベルアップするように、お前を鍛えなければとも考えたのだ……」
「そんなこと言ったって、無茶だよ、直ぐに強くなんかなれないもん……」

 有希の文句を無視して、盈は話を続ける。
「おまけに、師匠が召喚できる未来は、20年が限度なのだ」
「限度って、何日位までなの?」
「今日までだ……」
「ええっ?!」
「文句を言うなら、お前の父に言え。あいつは、そんな期日をすっかり忘れて、何も考えずに暮らしてきたのだ。そして有希が、あの約束された大悪魔だと云うことに、全く気付いていなかったのだ。
 私は期日を思い出した。そして気付いたのだ。最強の大悪魔とは誰なのか……。だからこそ私は焦った。
 私はこちらの世界の政木の大刀自と犬狼神三峰様と相談し、宇宙人の侵略をでっち上げた。そして先ず、宇宙人に味方する三峰様の部下に沼藺(ぬい)を陥れるよう邪心を吹き込み、お前を襲わせて置いて、それと同時に三峰様の部下が有希を狙っていると、大刀自経由で沼藺(ぬい)たちに匂わせたのだ」
「盈さんが、全て仕組んだのね……」

「兎に角、最低、覚醒だけでもして貰わねば困るのだ!」
「でも、覚醒なんて、どうやって……」
「お前の封印は、お前が闘いに全力を出し尽くした時、初めて解けると師匠は仰有っていたそうだ……。
 だがこれは、思った以上に簡単なことではなかった……。現に三峰様の部下では、覚醒の気配すら見ることが出来なかった」
「……」
「その原因は、お前が甘やかされて育ったことにある」
「私、そんなに甘やかされてないよぉ」
 有希は不満そうにそう言って口を尖らした。だが、盈はそれを冷やかに笑う。
「そうかな?」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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