ミメの伝説 偽りの伝説(1)

文字数 1,596文字

 少女アルウェンは、原当麻基地航空迎撃部隊作戦室に再び現れた。

 彼女は助っ人とも言うべき3人を引き連れている。勿論、純一少年、藤沢耀子、月宮盈の悪魔3人だ。
 彼らは、宇宙のウィルスとも云うべきファージを倒しに行くにあたり、出立の挨拶と感謝の言葉を述べるため作戦室(ここ)を訪れたのであるが、それに加え、実はアルウェンには更なる支援を求めると云う意図もあった。
 一方、航空迎撃部隊メンバーから見れば、これは出陣する仲間、新田純一激励の場でもある。そんなこともあり、迎撃部隊メンバーは全員が作戦室に集まっていた……。

 蒲田隊長が先ずアルウェンの前に進み、手を握って彼女と言葉を交わす。
「アルウェンさん、もうお手伝いすることはありませんか? せめて、宇宙空間までガルラで送るとか……」
「ありがとうございます。でも、それでは間に合いません。ただ、魔力は少しでも節約したいので、ガルラの機体をお譲り頂けませんでしょうか? 推進力については、私たちの能力を利用しますので、燃料のご心配には及びません。後は、私たちで何とか致します」
「分かりました。確かに、お手伝いしようにも、我々AIDSには、もう撃ち込むミサイルの1本も有りはしませんからね……」
「ええ、それに、下手にファージを攻撃してしまうと、その熱で繁殖してしまいます。敵遺伝子への攻撃は慎重を要するのです」

「白瀬さんたちは手伝えないの?」
 矢口隊員の質問に、アルウェンは首を振って残念そうに答える。
「私たちは、ファージに取り付いてから内部に侵入するまで、奴の体にしがみついていなければなりません。それは長い時間ではありませんが、太陽風の中、宇宙空間で耐えられなければならないのです。これが出来るのは私と大悪魔くらいのものです。白瀬さんたち妖怪には難しいかと思います。
 でも、確かに人数は多い方が良いのは間違いありません。ですから、純一君に加え、別時空の住人ではありましたが、この時空に関係するものとして、耀子さんと盈さんにも協力して頂きました……」

 その後、各々が言葉を交わし、暫し会話が途切れた……。この、ほんの少しの沈黙で、どうやら話すことは、もう無いと云うことが皆にも分かる。
 蒲田隊長は4人の戦士に改めて握手を求めた。沼部隊員、鵜の木隊員、そして残りのメンバーも4人に握手する。
 そして、それが済むと、戦士4人はガルラに搭乗する為、蒲田隊長に従って作戦室を後にした。その際、純一少年は美菜隊員に振り返り、小さく笑顔を見せている。一言も言葉を発すること無しに……。

 ガルラ発進の数時間後……、
 作戦室には沼部隊員、美菜隊員、矢口隊員、鵜の木隊員の4人が残り、椅子に腰掛けたまま、唯、手持ち無沙汰に天井を眺めていた……。

「行っちゃたね……」と矢口隊員。
「ああ、後は耀子さんたちに、運命を託すしかないだろう? もう俺たちには何も出来ないからな……」
 鵜の木隊員が矢口隊員の独り言に、独り言の様な返事をする。それを聞いて、唯1人、天井を見つつも、気力を失っていない沼部隊員が全員に意見を求めた。
「おい、それでいいのか? 純一君たちに全てを任せっきりで、それでいいのか? 俺たちの地球だぞ!」
「ガルラは月軌道位までしか飛べないし、攻撃しようにも弾丸も何もない。これで、どうしようって云うんだよ。俺だって、何も出来ないかも知れないが、何か少しでも、耀子さんたちの手助けがしたいさ!」
「何か出来れば、お前は命を賭ける気があるのか?」
「当り前だ! 耀子さんの為なら、宇宙でもどこでも行ってやるぜ!!」
「新田や矢口はどうなんだ?」
「あたしもAIDSクルーだよ」と、まず矢口隊員が答える。
 そして美菜隊員も静かに答えた。
「聞く必要なんか無いわ。あたしは純一の為に闘いたい……。
 でも、そう云う質問をするってことは、沼部隊員は何か考えがあるの?」
「考えなどは無いさ……」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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