ミメの伝説 アルウェン消滅(5)

文字数 1,569文字

 アルウェンと三悪魔は、ファージの底の円盤に『瞬間移動』の呪文で空間転移すると、円盤の円周、つまり縁の位置にあった小さな凹みに潜り込み、そこの凹凸にしがみついた。ここで一旦体勢を立て直し、突入の準備をするのである。

 しかし、それにしても……、
 円盤と云っても、彼らには、広大なスベスベした平面の大地にしか見えて来ないし、向う側の端など、遥か彼方にある地平線だとしか思えない。ここが地球や月と違う所は、重力が地面から上空に向かって働いていることだけであろう……。

「では、この『黒炎破弾』を、この円盤の底にぶつけます。それで壊れないとしても、あと少しでしょう。残りは私の呪文を使って破壊します。皆さんは魔法の力を温存して置いてください……」
 アルウェンは、彼ら3人の心の中に直接作戦を指示してきた。
 彼らの間には空気が無く、音が伝わらないのと、彼ら自身の身体の周りには、見えないバリアとも言うべき特殊な防護壁が張られていて、一部の可視光を除いて殆ど全ての外敵要因の侵入と、自身の熱エネルギーなどの内部要素の流出を防いでいたからである。

 アルウェンは、何かを包みこむ様に、その両手を軽く合わせた。すると、そこに黒い小さな球体が現れる。
 炎のエレメンタルフィールドと呼ばれる亜空間に保管されていたのであろう。その球体こそ、アルウェンが巨大な幻影を使って、地球上のミサイルを集めた作った『黒炎破弾』のブラックホールだ。

「それにしても、どうして私たちは後方に押し流されるの? ここには空気もないのに……、まるでファージの体では、頭の方向に重力が働いているみたいだわ……」
 耀子はそう言いながら、必死でファージの円盤にしがみついている。そうしないと、そのまま飛ばされて、広大な宇宙空間に放り出されそうだったのである。

 それには、チェストパスで『黒炎破弾』を飛ばしたアルウェンが答える……。と云っても、耀子の疑問はアルウェンにしか聞こえていなかった。但し、アルウェンの返事は耀子以外にも聞こえてくる。
「重力ではありません。これは慣性力です。ファージが太陽に向かって加速しながら進行しているので、慣性力が加わって来るのです。ですから、飛ばされない様に、自分の質量を減少して置いて下さい」
「成程、そう云う訳か……。だが、そう云うことは、また太陽に向かって飛び始めたと云うことだな……」
「はい、そうです。ファージは太陽への進行を再開しています」
 月宮盈の独り言にもアルウェンが答えた。

 ファージの基底部で大爆発が起こる。
 アルウェンの『黒炎破弾』の爆発だ。
 その爆発に巻き込まれない様に、アルウェンは彼らから見えない位置で『黒炎破弾』に着火させていた。そして、その爆発がファージの加速の手助けとならない様、円盤の中心部も当然ずらしている。この為、ファージは再び回転運動を起こし、大悪魔たちへと予期せぬ方向の力が加わった……。

 アルウェンはそのまま『太陽破弾』の呪文を連続して唱えた。これは、あの妖怪ハンターの首領ジザニが唱えた、核融合を発生させる系列の魔法である。
 この魔法が発動される度に『黒炎破弾』の発動した場所に白い光が輝き、大悪魔たちに衝撃を与える。そして遂に、12回目の『太陽破弾』で基底部の細胞膜は破壊された。

 アルウェンと三悪魔は『瞬間移動』で破壊された細胞膜の付近に転移し、出来た穴が突入可能な大きさであることを確認する。
「これなら、なんとか通れそうだな……」
 盈の呟きに、アルウェンも頷いた。
「これからは、コミュニケーションが難しくなります。皆さんも、各自で『脳内会話(テレパシー)』の呪文を掛けて置いてください……。
 では、突入しますよ……」

 アルウェンの一言を合図に、出来たばかりで、高熱をまだ残す細胞壁の穴から、4人は一気にファージ内部へと進入した。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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