有希の冒険 封印されし力(2)

文字数 1,575文字

 事の起こりは有希の決断による……。
 有希はあの後、両親と相談し、魔力を完全に封じる腕輪を身に着けることを決心した。
 そして、師である月宮盈に、パスワード入力すら出来ない、外せない腕輪の作成を依頼したのである。

 そして今日、盈がその腕輪を作り上げ持って来た。今、それを、月宮盈は有希に嵌めようとしている……。

「では、嵌めるぞ。これを外すのは、もう誰にも出来ない。精々、私の力で壊すことが出来る位だ。覚悟はいいな、有希」
 盈はテーブルの上に置いてあった金色に輝く金属製の腕輪を手に取り、ぐるりと回って有希の座っているソファへと、ゆっくりと近付いていった。

 しかし、実は、盈は心の中で別の会話を有希と行っていたのである。
 盈は以前、有希の能力を知った時に、彼女の能力をコピーしていた。これに由り、お互いの心の声が聞こえ、心の中で会話が出来るようになっていたのだった……。

「有希、よく聞け! お前は魔力など無くとも、呪文だけで、もう充分に無敵の存在なのだ。お前なら、呪文で腕輪を壊すことも簡単に出来る筈だ。
 これは、お前の母親を安心させる為の形だけ……まぁ儀式の様なものだ。
 しかし、それでもお前は、これからは闘わない方がいい。呪文も使うな。来るべき時が来るまで。お前の母親を安心させてやれ。お前の父親に娘を守る役を演じさせてやれ。
 さあ、腕輪を嵌めると無言の会話も出来なくなるが、いいな……」
「分かった……。でも、どうして何時も、盈さんは思ったことを言わないの?」
「本当のことを言わないのが、大人の(たしな)みと云うものだ。腕輪を嵌めれば、有希も大人の仲間入りだ。直ぐに分かる……」

 盈は無言で有希の左手を後ろから取ると、彼女の左袖をまくり、有希の手を潜らせて腕輪を通し、上腕部までそれを引き上げた。すると、腕輪はピタと収まった様にそこで止まり、すっと見えなくなった。有希は自分の左腕を、不思議そうに右手で擦ってみるが、そこにはもう何もない。
 盈はそのまま黙って元の場所に戻ると、静かに腰を降ろした。

「あと、これは私からのプレゼントだ。有希だけでなく、美菜さんの分もある」
 月宮盈は、自分のバッグから、よく神社にあるような守り袋を2つ取り出し、それをテーブルの上に置いた。
「何ですか?」
「見ての通りお守りだ。人間になり無防備となった有希を、昼行灯の純一などには危なっかしくて任せて置けん」
「僕はお守り以下ってことですか?」
「お前は腕輪を嵌めると、娘の危機も感知できんからな……」
 純一はやれやれと頭を掻く。
「お前はお守りと馬鹿にするが、これには葛の葉でできたヒトガタが入っている。これを取り出せば自動的に分割して、一体はお前に家族の危機を伝えに飛び、もう一体は持ち主を守る。結構役に立つのだぞ」
「ある種のゴーレムですね」
「式神と云うのだそうだ……。
 これがあれば、この前の様なことがあっても、充分に対処可能だろう」
「あの時は、直ぐ日本に戻れなかっただけですよ……」
「そんな時は、あの気障狐の『思い出』を使えばいいだろう。戻る時のことを考えてのことなら、もう一匹、正信や大全を『思い出』として飼っておけば良いではないか……。
 どうせあいつらは暇なんだ、いっその事、本物の狐正信を庭で飼ってみたらどうだ? 犬小屋でも建てて……」
「盈さんは、その年になっても無責任なことしか言わないですね……」
「お前こそ、ガキの頃から全く成長がない。あの耀子ですら、ほんの少し、大人になったと云うのに……」

 それから先は、もう会合どころか、儀式ですらなくなっていった。
 盈と純一は変な口喧嘩を始めるし、有希は有希で、盈に甘えまくって、背中に抱きついたりして遊んで貰おうと絡みまくっている。

 美菜はもう笑うしかない……。
 そう、取り敢えずこれでいい。娘は美菜の元に留まったのだから……。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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