ミメの伝説 偽りの伝説(2)
文字数 1,950文字
「蒲田隊長が北米支部に要請を
それでファージの進行を少しでも遅らせる。それに今、下丸子が宇宙空間でも彼らを回収できるよう、脱出用カプセルを改造し、ジズへの搭載を準備している。この前の様なことがあっても、純一君たちを救出できるようにする為だ。
後は、宇宙へと飛び立つ人選だけだ。ま、2人もいれば十分なのだがな……」
「あたしは行くわ。誰が何と言おうとも」
美菜隊員が低く呟く。
「俺も行く。耀子さんに生気を補給できるのは俺しかいない!」
鵜の木隊員が椅子から立ち上がり、大声で叫んだ。そして、それを部屋の外で聞いていたのか、下丸子隊員も入って来るなり意見を述べる。
「僕が行かなきゃ、カプセルに何かあった時、調整が出来ない。行くのは僕だ!」
「狡いよ~!
沼部隊員がにやりと笑って確認をする。
「場合によっては、帰りの燃料全て使ってのミッションになるかも知れないぞ……」
「だったら、絶対あたしも行く。1人だけ残されるの何てやだよ~」
「沼部、蒲田隊長やお前も行くんだろう? 決まりじゃないのか?」
鵜の木隊員と沼部隊員が顔を見合わせて、不敵な笑みを交わした。
「こうなると思ったぜ。燃料の節約と云う意味では、搭乗人員は少ない方がいいのだけどな……」
その頃、既に宇宙空間にいるガルラの中では、3悪魔が闘いを前に、緊張を隠すことが出来ずにいた。
アルウェンはそんな彼らの緊張を解す為、操縦席から離れ、メインデッキのテーブルに来て、3人との会話を始める……。
「ファージは丁度地球と反対側から太陽に接近しています。ですから、まだファージと遭遇するには相当の時間があります。何かそれまでお話でもしませんか?」
緊張する3人の中、一番緊張と縁のない男、純一少年が先ず声を上げた。
「僕はアルウェンさんの言い伝えを何も知りません。でも訊いてみたいことがあります。
ミメの目的って『善を為すこと』ですよね。そして、アルウェンさんは、それを為し遂げた……。でも『善を為す』って、一体何をしたのですか?」
アルウェンはその質問に、目を細めて楽しそうに微笑んだ。
「そうですね。誰でもそう思いますよね。
まず善の定義が分からない……。
自分を棄てて他人の為に尽くす……。即ち、個を棄てて全体の為に行動する。
仮にそれが善なら、全体とは何なのか?
個人を棄て、村の為に行動する。村を棄てて、国の為に行動する。国の概念を棄てて、人類の為に行動する。人類の枠を超えて、全生物の為に行動する……。
どこまで行けばいいのでしょうか?
でも……、全人類の為に行動する村長が、村民にとって善い村長と言えるのか……?」
「では、どうしたのです?」
「まず、偽善も善であると云うことを理解したのです。意識の中でどんな目的で行動しようとも、結果、相手に利があれば、相手にとっては善なのだと云うことを納得すると云うことです……」
「そう云うのは、普遍的な善では無いと思うのですけど……」
「絶対的な善と云う概念では無いですね。でも、その行為で相手は喜びますよ……」
「はぁ?」
「それを踏まえて……。私が行ったのは姉の意志を引き継いだだけ……。私は善など何も行っていません」
「ええ?」
「善を為したと偽って、ミコになったのです。姉の意志を引き継ぐ為に……」
あまり興味無さそうに聴いていた耀子であったが、やはり彼女の伝説を知って置きたいのだろう。話に加わってきた。
「先程から姉とか言っているけど、私たちは、あなたの家族構成を何も知らないのよ。もう少し説明して頂けません?」
「そうね。時間もあるし、少し昔語りでもしましょうか……」
アルウェンは耀子の方に顔を向け、少し微笑んでミメの話を話し始めた。
「元々、フィの村は小さな山の中の小部落だったそうです。そこにミメと云う少女がいて、冒険の旅に出ました。でも、彼女は栄誉を得て帰って来るなり自害してしまったのです。彼女がその旅の途中に何があったのかは伝わっていないのですけど、何か卑怯なことをして栄誉を得たらしくて、彼女は褒め称えられれば、褒め称えられるほど耐えられなくなったと云われています。そして死ぬ間際に『私なんかより、この名誉は相応しい者に』と言ったと伝えられています。
これがミメの伝説の始まりです……。
別に『善を為せ』なんて定義、最初はどこにも無かったらしいのです……」
「何なのだ? それは?」
盈も興味が出てきたらしい。