ミメの伝説 アルウェン(6)

文字数 1,618文字

 沼部隊員が、少女に先程の指示の意図を問い質す。
「あなたは、何の為に我々を殺そうと考えているのですか?」
「私は、本気で、あなた方を殺したいなどとは思ってませんよ。あれは彼女の忠誠心を確かめたくて、ちょっと冗談を言ってみただけです……」

 蒲田隊長が脱線した話を元に戻す。
「あなたは、ファージと云う太陽の破壊者を倒すと仰有った……。我々は、あなたの言うことを、信じて良いものなのでしょうか?」
「それはご自由に……。私は、あなた方の疑問に対し、お答えしただけです」
「それは分かりましたが、ファージと云う敵を倒すと云うことと、あなたがこの世界を支配すること、これはどう関係があるのですか? 私たちは、理由もなく支配されたいとは思いません。相手が大悪魔であっても。あるいは、無敵のあなたであっても……」

 蒲田隊長の言葉に、アルウェンは小さく笑みを漏らした。
「私も、この世界を支配しようなどとは、実は少しも思っておりません。そして、この美しい大悪魔を服従させる心算も、全く有りはしないのです。まぁ、少しばかり協力はお願いする心算ですけどね……」
「はぁ……」
「私に必要なのは、攻撃されること……。
 あなた方、地球人の持つ全ての武器を使って貰って……」
「何の為に?」
「私は今、巨大な幻影を作り出し、その陰の中に『黒炎破弾』と云う呪文を発動させています。これは、時空をほんの少し歪ませて、拳サイズのブラックホールを造る魔法です。
 このブラックホールは、相手の全ての攻撃エネルギーを吸収します……。物質もエネルギー化して吸収します……。そして、充分にエネルギーを溜めこんでから、私がその歪みを解きほぐすと……」
「溜め込んだエネルギーが、全てその瞬間に開放され、大爆発を起こす……」
「はい。私はそれでファージの外殻を破壊しようと考えているのです。そして、そこから敵の内部に侵入し、全魔力を使って、内にいる遺伝子を殲滅させようと考えています。ですから、もっともっと、私の幻影に攻撃を仕掛けて貰いたいのです」

「お前の戦闘力なら、人間の兵器など借りるまでも無かろう?」
 月宮盈は回復したのか、少し口を挟む。
「いいえ……。ファージを甘く見てはいけません。奴の外殻は宇宙空間でも、歪みの大きな宇宙でも、恒星に達する時ですら壊れることがないのです。
 恐らく……『黒炎破弾』と幾つかの魔法攻撃を集中しなければ、疵ひとつ付けることも出来ないかと思います」
「だったら、遠くに飛ばしちゃうなんてどうかしら? 他の太陽に向かう様に……」

 美菜隊員の意見は、この少女には酷く気に入らなかった様で、直ぐにアルウェンは美菜隊員に反対意見を述べた。
「それでは駄目なのです! どの太陽であっても、繁殖させてはならないのです! ファージは、1匹残らず殲滅せねばならない敵なのです!!」

「正義の処女(おとめ)にしては、随分ファージを憎みますね……」
 純一少年が不服そうに口を挟む。
「確かに、我々の太陽系を守るためには、僕たちはそれと闘わなければならないのかも知れない。でも、だからと言って、そのファージと云う奴には、善為す処女(おとめ)も慈悲を与えてはいけないのですか?
 大悪魔には、神の慈悲が与えられないのと同じ様に……」
「純一君……。あなたは、何も分かってはいない様ですね……。
 確かに私は、特定の生物・種族を守ることは致しません。ですから、あなたたちが捕食者に食べられようとも、私は、あなたたちを助けたりはしないでしょう。
 もし、私があなたたちを助けたとしたら、捕食者の食事を、私は不当に奪い去ったことになりますからね……。
 でも、ファージは違うのです……。
 私はファージと大悪魔が似ていると言いましたが、決定的に違う所があります。あれは生物では無いのです。
 強いて言うなら、恒星系を破壊する為だけに存在する、宇宙のウイルスなのです。繁殖させてはならない代物なのです。
 それが、どこの星系に現れようとも……」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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