有希の冒険 最後の切り札(5)
文字数 2,331文字
彼女が家から出て行くと、直ぐに純一の頭に『
「おい、有希を妖怪層に送ったか?」
「ええ。でも、何なんですか……?」
「お前は本当にしょうがない奴だな……。
有希は約束された大悪魔なのだ。もう時間がない! 明日中に有希を覚醒させなければならないのだぞ!!」
「約束された悪魔……? 覚醒……? 何のことです……?」
「お前はファージとの闘いも忘れたのか? あの時の救世主こそが有希だったのだ……」
「そう言えば、随分と昔に、そんな事があった様な気がするなぁ……。あれは、どんな事件だったっけ……」
純一はファージとの闘いの時の事を思い出した。だが、それにしても……。あの時、有希は未だ生まれていない。それに、大悪魔は今の有希くらいの歳だった……。
「馬鹿者! アルウェンが未来から大悪魔を召喚したと云ったのを忘れたのか?!」
そう言われて見れば、純一もあの救世主は有希の姿に似ていた様な気がする……。だが、雰囲気はどことなく、アルウェンの様な感じで、有希ではなかった様な……。
「あの時、あの救世主が言っていただろう? 期限までに自分を覚醒させろと……。そうしないと、ファージを倒した歴史が、全て覆されてしまうとも……」
「あ……」
純一も、あの時のことをやっと思い出した。だが、それにしても……。
「覚醒させるのは、なんで、明日中なんですか? もう少し時間があっても良いじゃないですか?」
「お前が、のんびりしているからだろう!
未来召還のリミットは20年だ。それ以上では召喚できなくなる。勿論、幼児の有希を覚醒させた処で意味が無い。ファージと闘うには現在くらいの体力が必要だ。だから、覚醒を急ぐ必要はなかった。
だが、それにしても……。もう少し、余裕があれば良かったのだが……」
「そうか……。どうしましょう?!」
「だから、有希に政木の大刀自の処に行って貰ったのだ。あそこなら、時間の概念が無い。それで何日かは稼げる……。だが、それも……、生気が
「でも、覚醒ったって……」
「そうだ。我々は有希をどうやって覚醒させたら良いのか、まるで分かっていない。
あの時、有希自身が『全ての力を出し尽くして闘えば覚醒する』と言っていたのを、もう信じるより他あるまい」
「……」
「取り敢えず、有希が必死になって闘う様に仕向けるしかない。それで、何が何でも覚醒させるのだ!」
「そんな……。第一、有希が本気で闘う相手なんて……」
「我々しかおるまい。それで、何とか覚醒させるのだ! 一応、大刀自とは相談がついていて、宇宙人の侵略と云う設定は出来ている。それで私とお前、そして耀子の3人で、妖怪層へ行って有希と闘うのだ!!」
「そんなこと言っても……。有希なら僕たちだってこと、直ぐに分かっちゃいますよ。あいつ、僕ら相手では、たぶん本気になんかならないですよ……」
「それを何とかするのだ! 我々が有希を殺そうとしていると、嘘でも何でも、信じ込ませるのだ!!」
「無理矢理だなぁ……」
「お前のせいだろうが!!」
純一はソファに座ったまま盈との会話を続けている。
「で、盈さん。覚醒って何なんですか?」
「分からん……。有希にアルウェンと同様の潜在能力があって、その能力が開花すると云うことなのかと最初考えたが……」
「でも、それなら……、魔法を覚えた段階で覚醒って言えるんじゃ……?」
「ああ、そうだな……。ならば、有希の中にアルウェンが憑依していて、それが目覚めて、有希の肉体を乗っ取るとか……」
「……」
「あるいは、有希が最初からアルウェンの生まれ変わりで、アルウェンとしての記憶と使命を思い出すとか……」
「だとすると……、覚醒すると、有希はどうなっちゃうんですか?」
「分からん……」
「そんな……」
「生まれ変わりだとしても、これまでの有希とは別物になるかも知れん……」
「そんなの嫌ですよ!!」
純一は思わず、自分の口で叫んでしまう。
それを聞いた美菜の驚く顔を見て、純一は顔を赤らめる。
「嫌でも何でも、覚醒させるしかないだろう。そうしないと、この世界が滅んでしまうのだ。最悪、有希のことは諦めろ!」
「嫌ですね……。そうなる位なら、僕は有希と美菜を連れて、別の時空に逃げますよ」
「無理だな……。過去の出来事だ。あの時、救世主が来なければ、我々も死んでいた。それで美菜も死んでいる。そうなると、有希は生まれて来ない……」
「……」
「仮に、有希の魂が死ぬことになるにしても、私たちは遣らねばならぬのだ……」
「そんなの……、僕が死ぬ方がましだ……」
「ああ……、私もだ……。
私は死んでも良い。お前を殺しても良い。美菜を殺すことになっても構わない。それでも、太陽系は救わねばならないのだ」
「確かに、有希は覚醒させなければならないでしょう。そうしないと、有希が存在出来ないと言うのなら……。
でも、それで有希が有希でなくなってしまうのなら、その時は僕を殺してくださいよ。流石にそれじゃあ、有希にも美菜にも顔向け出来ませんからね……」
「ああ、そうしてやる」
「でも、盈さん……。
有希は覚醒しても、有希の儘ですよ。
あの子の意識を乗っ取るなんて、どんな悪魔が憑依しても不可能です。況してや、有希の精神を消すことなんて、アルウェンにだって出来る訳がない……」
「そうだな……。有希の魂が消滅すると決まった訳じゃあない……。
有希は覚醒する。そして、覚醒した後も、今の儘の有希でいてくれる。そう信じるしかないだろうな……」
「ええ……。大丈夫です……」
純一はそう言って、大きく頷いた。