有希の冒険 再戦! 純一対沼藺(5)
文字数 2,247文字
一瞬でも隙を与えれば、今の純一には呪文攻撃がある。かと言って、接近戦を続けていると、重力操作で動きを封じられてしまう。
純一は、彼女が重力操作から逃れた何度目かのタイミングで熱気流のバリアを張る。先程、ここの
これでシラヌイは妖樫を手に、高温のフィールドに入ることは出来ない。この間に呪文を完成させれば、霊狐シラヌイと云えども、防ぐ手立てはないだろう……。
純一の目論見はそんな処だ。
だがしかし、そうそう考えた通りに、物事と云うものは運ばないものである。
狐火に高熱のバリアは通用しない。純一はこれを防ぐのに意識を取られ、呪文を唱えることが出来なくなった。
もっと高速な、砲弾、あるいは流星と云った様な物だ。それが火球となって、前後左右から純一に襲い掛かってくる。
その上、
それまで、
狐火と言う奴は、本来ゆっくりと近づき、その熱で攻撃するもので、高速でぶつかって来るものではない。
仮に、高速で当たったとしても、少し痛い程度のダメージしか与えられはしないもので、寧ろ、低速で纏わり付いた方が、高熱を長時間浴びせ、より多くのダメージを与えられる可能性がある。
それに、純一の皮膚は鋼鉄の皮膚へと瞬時に変化でき、通常の打撃は効きはしないのだ。つまり、純一にとって、狐火を高速にしたとしても、何も恐れる必要などないのである……。但し、相手が霊狐シラヌイでなければの話だ……。
シラヌイの狐火は違っていた。
彼女の狐火は高速で当たったにも関わらず、跳ね返らずにピタっとくっついたのである。それは丁度、オナモミの実が服に付着する
「あちちちちち!」
純一は余りの熱さに、そう叫びながら地面を転げまわった。それでやっと火球を振り落とすと、彼は素早く立ち上がり、次の攻撃に移る。
「ふ~。じゃ、これならどうだ?」
純一の背中から、服を突き破って黒い翼が飛び出した。その翼竜を思わせる翼は、彼らが悪魔であることを納得させるのに最も適した道具だ。
純一は、その翼を使い、間合いを外すべく宙へと舞上がる。
「このまま地上で待って、パパに余裕を与えてしまったら、シラヌイさんは空からの呪文攻撃を集中的にその身に受けてしまう。それでは勝目がない……」
有希がそう思った時、シラヌイは純一を追って空を飛んでいた。
「瑞雲!」
それは恐らく、純一たちに技の名前を教える為なのだろう……。彼女はそう叫ぶ前より早く、既に上空高く飛んでいる。言葉が技発動のきっかけだった訳がないのだ……。
因みに……、
尚、通常は四本の足を支える4つ1組の雲なのだが、二足歩行の今は2つしか使用していない……。
「追って来る位なのだから、空中戦にも自信があるのだろうな……」
純一は無駄と知りつつも、一応、シラヌイとの空中戦を挑んでみた。シラヌイは妖狐独特のしなやかな動きで、純一に妖樫での攻撃を仕掛けて来る。
実際、純一は空中戦は得意ではない。そして、妖樫の攻撃は彼には致命的だ。彼は早々にこの条件で闘うことを断念し、地上へと墜落する様に下降して行った。
するとシラヌイは空中で、左手の拳を純一に向け、その手首に右手を添えた。
「嘘、あれ……、悪魔の技じゃないの?」
有希がそう思うのも無理はない。
それは月宮盈や藤沢耀子が得意とする光線砲の構え。しかし、それは悪魔専用の技ではない。現に、尾崎真久良などは黒の光弾を得意技としている……。
とは言っても、真久良のは光線銃のレベルだ。大悪魔の放つ光線砲とは威力が大きく違っている。
だが、
しかし、純一は地上に墜落するのを
「おい、テツ! それは、ちょっと汚いぞ。時間を戻すのは反則だ!!」
戦士の出入口付近で、耀子が味方の純一に、笑いながらヤジを飛ばして囃し立てた。耀子もその闘いを見物していたのである。
そして彼女は、後ろの暗がりにいる者にも声を掛けた。
「どう? 彼女の闘いって、あなたにも参考になるでしょう?」
だが、耀子に話し掛けられた相手は、それについては何も答えず、唯、じっと2人の闘いを見つめていたのである。