有希の冒険 父、叔母、そして母(1)

文字数 1,327文字

 純一は背中に有希の脅威を感じ、自分の娘の方へと体の向きを変えた。すると、そこには、母から受け継いだ強い使命感と、師匠譲りの鋼の闘志を(みなぎ)らせた、若き大悪魔の勇士が立っていた。

「パパ、次は私が闘う。理由なんて、もうどうでもいいわ。パパが訳の分からないお芝居をしてまで、私に闘って欲しいと云うなら、パパの相手をしてあげるよ」
「そいつはありがたい。但し、パパも本気で闘うからな。有希も死ぬ気で掛かってきてくれよ。それと、パパとの闘いは魔法も悪魔の力も無しだ。素手の格闘ってやつだな。
 女の子の有希には不利な条件だけど、構わないだろう?」
「いいよ、パパがそうしたいのなら」
 純一は有希の承諾の返事を聞くと、自分の腕にも金属製の魔封環を取り付ける。これで2人とも人間と同等になった。有希の方が若干不利だが、中年サラリーマンの純一では、絶対的に有利と云う程の差はない。

 純一は、ふと、有希がまだ幼かった頃のことを思い出した……。

 有希は悪魔能力を失って直ぐ、魔法師匠の月宮盈や叔母の耀子、あるいは昔、宇宙人と闘っていたと云う母に憧れ、純一から格闘を教わったことがある。しかし、有希には格闘がそれほど面白いとは思えなかったのか、直ぐに習うのを辞めてしまっていたのだ……。
 その時、純一は、有希が格闘を辞めてしまうのをひどく惜しいと思っていた。しかし、普通の女の子として生きていくことを決めた有希に、闘いを前提とした格闘術を強要することなど彼には出来なかったのである。
 あの日、有希が格闘を辞めることを、純一は確かに認めたのだ……。
 それが、どう云う運命の巡り合わせか、有希は大悪魔に戻り、今は敵同士として、妖怪層と云う場所で、純一と格闘の拳を交じえている。
 その不思議さに、純一は感慨の気持ちを抑えきれなかった……。

 有希は、何年振りかに取る右自然体の構えから、小走りに純一に近付いて、大振りにパンチを繰り出す。それが(かわ)されると、今度は右の廻し蹴りを放ってみた。だが、それも大きく空を切る。
 純一はそれを見て、手を何回か叩いた。どうも一旦休みの合図らしい。

「有希、それじゃ絶対当たらんぞ。いいか、僕たちの格闘術ってのは攻撃が無いんだ。有希のは近付いてきて、はい、攻撃します。って感じなんだよな……」
「攻撃が無いって……、訳分かんない!」
 それを聞いて純一は困ってしまった。これをどう伝えたらいいだろう……。

「お~い、そこの真久良(もど)き。ちょっと僕の手伝いをしてくれ!」
 純一は、まだ闘技場に残っていたオサキの里の棟梁を呼びつけた。純一の予想通り、彼は「やれやれ」と云った表情で、仕方なさそうに近付いてくる。

「何なんですか? あなたは敵でしょう?」
 そう、その上、十数分前に『思い出』とは言え、別時空の真久良を惨殺している相手だ。だが、彼のペースに巻き込まれると、何故か誰もが調子を狂わせてしまうのである。

「まぁ、そう硬い事言うなよ……。
 このままじゃ、有希が弱すぎて、お話にならないんだ。少し手伝えよ。お前だって有希には負けて欲しくないんだろう?」
 純一は、彼を『思い出』の真久良か何かかと考えている様だった。
「全く……。少しだけですよ。で、どうすれば、いいんですか?」
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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