有希の冒険 オサキの里(6)
文字数 1,737文字
彼女は左腕に嵌っている腕輪のパスワードを入力し、悪魔の力を何時でも使える様に、それを外していた……。
有希が金網に手が届く位置まで来た時、どこに隠れていたのか、人間2人が有希を狙って銃を構えながら姿を現す。有希はこの2人を交互に睨みつけると、当然の権利とばかりに子狐の開放を要求した。
「この子を、逃がしてはくれませんか?」
「逃がすだと? 馬鹿を言うんじゃない。こいつは人間に祟る妖怪でな、儂ら、どれ程こいつに悩まされてきたことか……」
その時のハンターの心の声を聞いて、有希は人間の言うことではなく、真久良の方が正しいことを理解した。
「この子は何もしていないでしょう?! 放しなさい!!」
「放してやってもいいが、その替わりお前が檻に入るか? どうせ妖怪の仲間だろうが、 奇麗な顔に化けやがって、結構、上物じゃねえか……」
「私が檻に入っても、この子を逃がす気なんてないくせに……」
「分かっているんなら、痛い目を見ないうちに早く檻に入んな。おっと、抵抗したって無駄だぜ……」
有希は、怒りと情けなさのあまり、顔が蒼くなってしまう。そして、この同族である人間のハンターに、刺し殺さんばかりの憎しみの眼差しを向けた。
そして……、それに続きハンターの1人にゆっくりと左拳を向ける。
勿論、彼らには、その左拳の意味は分からない。だが、妖怪ハンターとしての経験からか、それが非常に危険なものであることだけは感じることが出来た。
2人のハンターは、攻撃を受ける前に敵を倒してしまおうと、先制攻撃とばかりに銃を発砲してくる。妖怪封じの呪術が込められた散弾銃の弾だ。
有希は、この攻撃を斜め左右の至近距離から同時に受けた。彼女のパーカーやスカートはその攻撃の威力でビリビリに消し飛び、有希は下着も露わな姿にされてしまう。しかし、妖怪封じが入っていようがいまいが、銃弾などでは、彼女の肌に傷ひとつ付けることすら出来はしない。
有希は2人を再び睨みつけた。そして、今一度、左拳をハンターに向ける……。
その時、有希に脳裡に彼女の母親の姿が映し出された……。
美菜は有希が怒りに任せて、悪魔の能力を人間に使うことを本当に恐れていた。もし、ここで有希が、自分を殺そうとした奴らとはいえ、このハンターたちを撃ち殺したら、きっと母が悲しむに違いない……。
有希は、攻撃を仕掛けることを思わず
「もう1度言います……。
子狐を開放しなさい! そして2度とこんなことをしないようになさい。約束すれば、今回だけは見逃します!!」
先程のことで有希の強さを感じとったのか、ハンター2名は銃を持ったまま、ゆっくりと両手をあげて有希に降参をする。それを見た有希は、心の中で、ほっと安堵の溜息を吐いた。
有希は「もし、このハンターが降参しなかったら……」と云うことを考える。
恐らく彼女は、この無法者を許すことは無かっただろう。それは自分でも分かる。
だが、許さないと云うことは……、
「その瞬間から、自分はもう、ママの子ではなくなってしまう……」
有希は思う。今回は取り敢えず良かった。でも、次はどうなるか?
有希が監視する中、2人のハンターは檻の鍵を開け、子狐……と言っても、実は有希より少し上の少年だったのだが、彼を檻から解放した。
檻から出た子狐は、人間へと姿を変えた。別に狐の姿の儘でも良かったのだろうが、彼は人間形体の有希に、自分の姿を合わせたかったのかも知れない。
有希は、その少年に思いっきり抱きついて、彼の無事を喜んだ。
子狐には、この見知らぬ少女が何故そんなことをするのか分からない。だが、人間となった少年は、この殆ど下着姿の少女に抱き締められて、心臓の鼓動が思いっきり早まっているのを感じていた。
そう云えば彼自身、狐が人間の姿になった儘、何も衣類を付けていない状態だった。そんな姿で抱き合っていると、何か、2人だけの隠し事をしている様な、そんな、特別な高揚感を感じるのだ……。
無論、それは、そんな長い時間ではない。
それでも、その短い時間の終わる前に、あの斬劇は起こった。