有希の冒険 再戦! 純一対沼藺(4)

文字数 1,476文字

「有希さん! 今助けます!!」
 そう言って棟梁が、有希を拘束するその黒い蔓を小刀で切ろうとするが、その蔓を切ることは中々容易には出来ない。

「真久良さん、無駄よ……。
 パパの皮膚は真久良さんの刀では切れないわ。硬化もするし、切っても再生する。それに、無理して力を込めて切ろうとすれば、私の腕や足ごと斬ってしまう。
 だから、もういいよ。真久良さんはもう逃げて。もう私、覚悟は出来たから……」

 しかし、丁度その時、このタイミングを待っていたかの様に、戦士入場口から澄んだ高い声が響いてくる。
「有希ちゃん、闘いなさい。まだ、あなた、死んでいないのよ。諦めるのは早いわ。最後の最後まで、あなたは闘う義務がある!」

 戦士控室にいたのであろう……。
 その声の主は、入場口からゆっくりと歩いて姿を現した。そう、その声とその姿は、この闘技場と観客席にいる誰もが知っている人物……。政木家の姫、沼藺(ぬい)、その人だ。

沼藺(ぬい)さんじゃ……ない」
 悪魔の検知能力を失っても、彼女がこの時空の沼藺(ぬい)でないことなど、有希には直ぐに分かった。
 ここの沼藺(ぬい)は、確かに凛としたオーラを身に纏っている。しかし、今の彼女はもっと別の……、神社や聖域に入った時に感じる冷気の様な、清々しいのだが心の引き締まる、神気に近いオーラを纏っているのだ。
 恐らく彼女こそ、オリジナルの沼藺(ぬい)、又の名をを霊狐シラヌイ。

「新田さん……。私、さっきギブアップしちゃったから、闘う権利は無いのだけど、有希ちゃんが闘う意志を取り戻すまで……、いいでしょう?」
 沼藺(ぬい)は、純一に向かって、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「私と付き合ってくれても……」
「ああ、勿論だ。でも有希に逃げられても困る。ちょっと待っててくれないか?」
 純一はそう言うと、再び右手を飛ばし、有希の左腕にある魔封環のテンキー入力部分を掴んでキーイン出来ない様に固定し、そのまま硬化した。
「さて、これで良しと……。しかし、君で僕の相手になるのかな?」
 純一も沼藺(ぬい)に微笑みを返す。それが戦い開始の合図だった……。

 シラヌイは一気に間合いを詰めると、純一に対し木刀での連続攻撃を仕掛ける。これは先程の尾崎真久良と大差ない動きと速度であるが、合間に蹴りをも交えた攻撃である点を考えれば、彼よりも格段に速い。
 そして、ただ速いだけではない。
 充分に重いのだ。その攻撃の重さの為に、純一はガードを軽くし、安易に高速移動で防ぐことは出来ない。おまけに、シラヌイの両手の攻撃は、内部破壊の出来る妖樫を手にしてのものだ。この為、素手で下手なガードをすれば、骨と肉を断ち切られる恐れがある。
 シラヌイが押していると見えた瞬間、彼女は後方に10メートル近く跳び退いた。そして着地すると、彼女は一気に走り、再び間合いを詰め直す。

「有希さん、今のうちに……」
 有希を逃そうとした棟梁であったが、有希の表情を見て、また手が止まってしまう。有希は目を輝かせ喜んでいたのだ。
「凄い……。シラヌイさん、凄い!」

 それは、有希だけの感想ではなかった。
 先ほどの彼女の闘いに失望した沼藺(ぬい)ファンの観客も、(アンチ)沼藺(ぬい)の観客ですら、この汚名返上する闘いに、息を飲み、目を丸くせずにはいられなかったのである。

沼藺(ぬい)、僕を舐めるなよ!」
「私が要君を舐める訳ないじゃない。次も全力でいくわよ!」
 純一の目も有希たち同様に輝いていた。それはそうだ。あの沼藺(ぬい)と、こうして今1対1で闘えるのだ。そして、それは霊狐シラヌイにとっても同じこと……。

 あの時、彼の懐に守られた子狐は、今、憧れの彼と対等に闘えるまでに成長した。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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