有希の冒険 再戦! 純一対沼藺(4)
文字数 1,476文字
そう言って棟梁が、有希を拘束するその黒い蔓を小刀で切ろうとするが、その蔓を切ることは中々容易には出来ない。
「真久良さん、無駄よ……。
パパの皮膚は真久良さんの刀では切れないわ。硬化もするし、切っても再生する。それに、無理して力を込めて切ろうとすれば、私の腕や足ごと斬ってしまう。
だから、もういいよ。真久良さんはもう逃げて。もう私、覚悟は出来たから……」
しかし、丁度その時、このタイミングを待っていたかの様に、戦士入場口から澄んだ高い声が響いてくる。
「有希ちゃん、闘いなさい。まだ、あなた、死んでいないのよ。諦めるのは早いわ。最後の最後まで、あなたは闘う義務がある!」
戦士控室にいたのであろう……。
その声の主は、入場口からゆっくりと歩いて姿を現した。そう、その声とその姿は、この闘技場と観客席にいる誰もが知っている人物……。政木家の姫、
「
悪魔の検知能力を失っても、彼女がこの時空の
ここの
恐らく彼女こそ、オリジナルの
「新田さん……。私、さっきギブアップしちゃったから、闘う権利は無いのだけど、有希ちゃんが闘う意志を取り戻すまで……、いいでしょう?」
「私と付き合ってくれても……」
「ああ、勿論だ。でも有希に逃げられても困る。ちょっと待っててくれないか?」
純一はそう言うと、再び右手を飛ばし、有希の左腕にある魔封環のテンキー入力部分を掴んでキーイン出来ない様に固定し、そのまま硬化した。
「さて、これで良しと……。しかし、君で僕の相手になるのかな?」
純一も
シラヌイは一気に間合いを詰めると、純一に対し木刀での連続攻撃を仕掛ける。これは先程の尾崎真久良と大差ない動きと速度であるが、合間に蹴りをも交えた攻撃である点を考えれば、彼よりも格段に速い。
そして、ただ速いだけではない。
充分に重いのだ。その攻撃の重さの為に、純一はガードを軽くし、安易に高速移動で防ぐことは出来ない。おまけに、シラヌイの両手の攻撃は、内部破壊の出来る妖樫を手にしてのものだ。この為、素手で下手なガードをすれば、骨と肉を断ち切られる恐れがある。
シラヌイが押していると見えた瞬間、彼女は後方に10メートル近く跳び退いた。そして着地すると、彼女は一気に走り、再び間合いを詰め直す。
「有希さん、今のうちに……」
有希を逃そうとした棟梁であったが、有希の表情を見て、また手が止まってしまう。有希は目を輝かせ喜んでいたのだ。
「凄い……。シラヌイさん、凄い!」
それは、有希だけの感想ではなかった。
先ほどの彼女の闘いに失望した
「
「私が要君を舐める訳ないじゃない。次も全力でいくわよ!」
純一の目も有希たち同様に輝いていた。それはそうだ。あの
あの時、彼の懐に守られた子狐は、今、憧れの彼と対等に闘えるまでに成長した。