有希の冒険 封印されし力(3)
文字数 1,224文字
それは、平和な少女時代を過ごせる様にと、何者かが有希に関係するシナリオを、都合の良く書き替えたかの様であった……。
有希に施された大悪魔能力の無効化は、有希を即座に人間へと変えた。だが、それまで培ってきた筋力と、それを支える骨の強度、柔軟さは簡単に消えるものではない。この為、人間となっても、有希は、暫く物事を手加減して行う必要があった。
また、月宮盈が指摘した様に、魔法の使用に関しては悪魔能力との関係はなく、有希は封じられることなく魔法が使える状態にあった。なので、それを使わない様にする為に、有希は幼児には辛すぎる程の忍耐を要求された。
だが、そんな有希であったが……、
小学校の低学年の頃は、有希も能力をセーブして生活しなければならなかったが、それも徐々に不要となって、中学の頃には凡人並みとなり、勉強も、運動も、何事にも全力で取り組まなくては上手く行かなくなってしまったのである。
また、魔法に関しても、使わなくなると呪文もうろ覚えとなり、使って失敗するのも恥ずかしい気がし、段々と使うことを考えなくなって、結局、高校に上がる頃には、もう魔法を使うと云うことすら思い浮かばなくなってしまった。
因みに、呪文記憶の喪失に関しては、有希が人間となったことに、多少なりと関係があると純一たちは考えている。
つまり、呪文記憶に関して、悪魔の潜在能力が大きく影響しているのではないかと考えたのである。
悪魔は転生後も前世の経験を保持することが出来る。この特性から、呪文の記憶に関しても、普通の人間よりも遥かに古い記憶を正確に呼び出すことが出来るのだと、純一と盈は考えたのであった……。
尚、十人並みに努力しなければならなくなったことについて、不精者の有希にしてみれば、少し不満な状況ではあったのだが、他人に頼めるものは、他人(純一たち親も含め)にやって貰うと云う手段を用いることで、あまり不便を彼女自身は感じていなかった。
一方、美菜は、有希が人間として努力しなければならないことについて、寧ろ、娘の成長を見守ることの出来る、とても有難く、最高に喜ばしい状態だと考えていた。
ところで……、
純一はと云うと、純一少年と呼ばれていた頃から、いや、要鉄男と呼ばれていた頃からだが……、精神的には何の成長もなく、外見だけが年相応の姿に変わっていった。良く言えば、『少年の心を持った大人』と言えないこともなかったのだが……。
また、例の盈から渡されたお守りは、その10数年の間、1度として使われることは無く、美菜の札入れの場所塞ぎ、有希の鞄の変なアクセサリーとしてしか役立っていない。
こうして……、
美菜も有希も、純一すらも悪魔であった過去を忘れ、このまま、新田家の家族は、人間として生活し続けるものと信じ切っていた。
あの出来事が起こるまでは……。