有希の冒険 再戦! 純一対沼藺(1)
文字数 1,966文字
だが、有希はまだ純一と闘う気になって来なかった。有希の頭の中では、疑問と困惑が渦を巻いていて、闘いだけに集中することが出来なかったのである。
有希は純一の心の声を聴こうとした。しかし、純一の頭の中には、調子の外れた童謡が流れているだけだった……。
「ぽっぽっぽ、はとぽっぽ……」
明らかに有希の能力の特性を考えての防御策だ。有希は仕方なく言葉を使って彼の考えを問うことにした。
「パパ、何でこんなことしているの?」
それに対する彼の答えはこうである。
「色々あってね……。宇宙人の侵略については、きっと宇宙人の大将が話をしてくれるさ。でも、結局、パパには有希のことの方が一番大事かな。耀子叔母さんにも言われたんだけど、どうもパパは、有希を甘やかし過ぎちゃったらしいんだ……。だから、こんなことになっているんだよ」
その時、
大将は勿体ぶって、フードを取ろうとはせず、そのまま話を始めてきた。その声は、元の声を誤魔化す為か、マスクをしている様にくぐもって聞こえる。
「有希、私から話そう……」
「そんなフード、外したらどうですか?
パパは兎も角、耀子叔母さんが大将を譲るなんて、あなたしかいないでしょう?
盈さん、違うのですか?!」
「フフフ……。正解だ、有希……。
でもフードは、まぁ未だ良いだろう。
そう、宇宙人など実は偽りだ。これは異時空人……即ち、私たちが、お前たちの時空に侵略を仕掛けているのだ……」
「何の為に? そんなこと盈さんがするなんて変です」
「何の為にか……。
有希はエネルギー循環と云う物を知っているか? それと同じ様に、命の循環と云う物もあるのだ。小さな生き物の命を食べ、大きな生き物が育ち、より大きな生き物がそれを食べる。そして一番大きな生き物も死んで、その朽ちた死骸が一番小さな生き物の餌になっていく……。生命とはそうした命の循環で回っているのだ。そして、その全体の生命エネルギーの総和が、その世界に生きていける生命の上限……。
この生命エネルギーが、我々の時空では枯渇してきているのだ。
そこで私は考えた。この時空を侵略し、今ここに住んでいる人間を下流民とし、私たちの世界の人間を上流民として移住させれば、生命エネルギー問題は解決するとな……。
どうだ? いい考えだろう?」
「そんなの変です。この時空の生命エネルギーは、この時空の物じゃないですか? それを奪い取るなんて強盗です」
「別段、ここの住民を絶滅させようと考えているのではないぞ。ただ、下流民として服従して貰おうとしているだけだ」
「何ですか? 下流民ってのは?」
「移住したのに不便ではちと困る。だから、ここの住民を下僕をして、奉仕させようと云うのだ。我々は征服者となるのだ。その位しても良いだろう?」
「酷過ぎます。突然侵略し、住民を奴隷として支配しようだなんて……」
「安心しろ。お前とお前の母は、こっちの人間であった男の家族だ。上流民と同等の生活を保証してやろう」
「そんなこと言ってません!」
「だったら何だと言うのだ?」
「止めてください!」
「止めて欲しければ、力づくで止めるのだな。だが、それには先ず、お前の父と叔母を倒すことだ……。それが出来たら、私が相手をしてやろう」
フードの宇宙人はそう言うと、再び大きくジャンプして選手用の元の席へと戻って行った。有希は唯、その姿をじっと見続けるしかなかった。
そんな有希に、対戦相手として正面に立つ父が話掛けてくる……。
「じゃあ、有希。パパたちも闘おうか?」
「パパ……。盈さん、おかしいよ。どうしてそんなことするの? パパも上流民なんかになりたいの? 変だよ……」
「う~ん、そうだな……。
パパは、盈さんとは別の目的があるんだ。耀子叔母さんも、大刀自に頼まれた別の目的があった様だけど……」
「パパの目的って何?」
「パパ、どうも、子育てに失敗しちゃったみたいなんでね……」
「え?」
「だから、全てやり直そうと思っているのさ。そう、今の有希を処分して、もう一度ママと、新しい子供を作って育てようかと思っているんだ……。
ママのことだから、そんなこと言っても、『有希がいるのに駄目です』て言って、きっと賛成しないだろう?
だから、ママの目の届かない妖怪層に有希が来るように仕向け、ここで有希を始末しようと思っているんだよ……。実にいい考えだと思わないか?」
「パパ、何言っているの……?」
「だから有希、闘っておくれ。そしてここで見事に、パパの為に死んでくれないか?」