有希の冒険 ヌルデ村の戦い(4)
文字数 1,633文字
真久良や有希たちに敵対する側にも、それを統括する組織があり、そして、それらを束ねている司令部も、当然の事ながら存在していた……。
敵の作戦司令部は、村から離れた森の中心付近、人工的に木を伐採して造った広場の中央にある。そこには、ログハウスの様な数軒の家が建ち並んでおり、その中で、一番最初に建てられたであろう古い1軒……。それが、有希たちと敵対する妖怪ハンターの総司令室であり、妖怪ハンターを束ねるリーダーの住居であった。
妖怪ハンターのリーダーは、ジザニと呼ばれる男だった。それは通称なのだが、本名で呼ぶ者などここには居らず、その本名を知る者もここにはいない。
このジザニであるが、彼は妖怪ハンターでありながら、何故か妖怪の能力を持っていた。それが妖怪から教わったものなのか、先祖に妖怪がいて、遺伝的にその能力を受け継いだものなのか、その理由を知る者は1人もいない……。
唯、それにより、彼は妖怪層と人間層を自由に行き来でき、妖怪層で狩猟を行う
妖怪猟師
と云う新たな職業を手に入れることが出来た……。そして、その能力は、彼を妖怪猟師としてだけでなく、配下を集めることにも大きく貢献したのだ。こうして、彼は妖怪ハンターたちのリーダーとなった。ジザニがリーダーになったのは、彼の野心だけが理由ではない。彼の部下にも多大なメリットが有った……。
妖怪ハンターたちからすると、彼の下に就くことで、安全かつ効率の良いハンティングが可能となるのだ。
どう云うことかと言うと……。
妖怪ハンターの業務は、本来、人間層に現れた
人間に徒為す妖怪
を退治することにある。妖怪の死骸を売るのは、あくまで副収入にしか過ぎない。そう云う妖怪は一般的に凶悪で、おまけに戦闘力や妖力が異常に高い。必然、彼らの職務は命賭けのものになってしまう。
しかし、妖怪層に赴いて狩猟する場合、謝礼金こそ貰えないが、妖怪の多くは非戦闘員であり、それらを捕殺することは実に容易な作業となる。
おまけに妖怪の捌き先は、ジザニが準備してくれていた。彼の部下にさえなれば、命の心配も要らないばかりか、ある程度、安定した収入も保証されている……。
こんな理由からか、ハンターたちは、
因みに、彼の能力は、それだけではない。
ジザニは、妖怪層と人間層を行き来できる力の他に、なんと魔法も使えた。そして、狡猾さと云う才覚も身に着けている。この狡猾さと云う才能は、組織のリーダーとして、非常に有益な力であることは間違いない。
そんな彼が、今日殺された部下の遺体を前に、
心を許さない
友人の1人に意見を求めていた。2つの遺体は、司令部の小屋のウッドデッキに寝かされ、筵の様な布を被せられている。1つは見慣れた遺体で、妖狐の牙と爪に殺られたものだ。だが、もう1つの遺体は車切りに刀で斬られたものなのだが、刀傷とは別に何らかの武器を使って左胸を抉られている。そして、不思議なことに、これだけの傷にも関わらず、苦痛に顔を歪めるでもなく、寧ろ、安らかな死に顔で死んでいた。
ジザニは遺体の布を顔まで隠す様に掛け直し、隣に立つ彼の友人に問う。
「どう思うね? これは妖怪の仕業には思えないのだが……」
「ああ、間違いない。こいつは生気を吸われている。これは大悪魔の仕業だ」
「大悪魔?」
「ああ、時空を超えて旅をする魔物で、人間の生気を吸って、無限に生きながらえると云われている。そいつらの能力は広大無限で、人間や妖怪では、とても太刀打ち出来ない」
「『お前らを除いては』と云うことか? ウィシュヌ……」
「ああ、我がウィシュヌ光臨教団のドルイド僧以外、誰も奴らに敵わない……」
そう言うと、ウィシュヌと呼ばれた目付きの悪い怪しい男は、その後ろ……デッキ下に控える十数名の無表情の軍団の指揮官らしく、自信有り気に、ニヤリと薄ら笑いを浮かべたのである……。