有希の冒険 ヌルデ村の戦い(1)
文字数 1,335文字
彼女は既に人間の少女でも、政木家の家中の者でもない。唯、オサキの仲間の妖怪であり、村の救世主であった……。
次から次へと、貫頭衣を着たお婆さんやら子供やらが、有希の手を両手に取って感謝の意を表してくる。流石に、この人たちを無碍に扱う訳にも行かず、その人狐の波が収まるまでは、ここにいるしかないだろうと、有希は真久良の家に直ぐに戻ることを諦めざる得なかった。
そんな中、ひと際目立つ、大きな体躯の男の姿があった。人間名を尾崎城兼と云う。本名は……、まぁどうでも良いであろう。
城兼は、彼の番がまわって来た時、手に持っていた大きなシーツを、有希の頭からバサッと被せた。
何の真似だろうか……?
その大きなシーツには中央部に切れ目があり、有希はその穴から、きょとんとした表情の顔を突き出す。
「これは、ここの奴らが身に着けている普段着で、カナフと云うものだ。まぁ、その恰好よりは遥かにマシだろう」
「あ、ありがとう……」
有希は、この男には以前どこかで会ったことがあると感じていた。と云うより、もっと身近な存在として認識していた筈なのだ。
しかし今、彼女は完全に悪魔の能力を封じられた状態にある。この為、有希には彼が何者かも、そして彼が何を考えているかすら分からなかった。
「あなたは?」
「俺は城兼ってもんだ。ま、あんたには分からんだろうがな……」
「?」
彼と有希が話し始めたのが原因か?
それとも他に用が出来たのか? 真久良が急ぎ足で有希たちの方に駆け寄って来る。
「城兼、どうしたのだ?」
「いや、別に……。ちょっと、このお嬢さんを見に来ただけだ……」
有希は少し、城兼の「あんたには分からんだろう」と言う言葉が気になっていたので、取り敢えず、真久良に彼のことを尋ねてみることにした。
「真久良さん……。こちらの……、城兼さんも、この村の住人なのですか?」
「いいえ。彼は隣のヤマハゼの村から来たオサキ狐ですよ。オサキの里は、ここヌルデの村だけでなく、各所に点在しているのです。彼はどうした風の吹き回しか、一昨日からここに宿泊しているのですよ」
「そうなんだ……」
「それより、有希さん。あなたを歓迎しようと宴を考えていたのですけどね……。少々急用が出来てしまいまして、後日と云うことにさせて頂きたいのです……。
済みませんけど、政木の屋敷に、今すぐお帰り頂けませんか?」
「え~、もう少ししたら、
「済みません……。どうしても、都合が悪くなってしまったのです」
真久良は非常に困った様な表情をして、有希にそう答えた。
有希は、その真久良の態度が気になり、腕輪をまた外そうとする。しかし、脇にいた城兼が、そのテンキーを手で塞いでパスワードの入力を阻止した。
「城兼さん?!」
「そんなことしなくていい! 俺が説明してやるよ!!」
「城兼! 黙っていろ!!」
3人の間に緊張が走る。
有希は2人の男性を見つめ、真久良は城兼に斬り掛からん勢いだし、城兼は胸を張り、下目使いで真久良を睨みつけている。
「城兼さん! 話して!!」