悪魔たちの休日(3)

文字数 1,921文字

 2人は御徒町の駅で電車を降りた。
 しかし、降りたった先は御徒町駅のホームではない。そこは喜津根ホテル、それも玄関前の駐車場だった。

「え? 何、また耀子何かやったの?」
「また? 失礼ね。だから、ここは想像の世界。ここで何泊かしていかない? 現実世界の時間は経過しないからさ。3人でゆっくり楽しもうよ」
「耀子、悪魔辞めたって言ってたけど、相変わらずの

じゃん。
 それに3人って、要君も呼んだの? やだわ、こんなお婆ちゃんの姿で……」
「どこが、お婆ちゃんなんだか……。
 テツは来ないわよ。あいつは今日、忙しいし……。ほら、3人目がやって来た」

 和製ヘップバーンと初老の小母さんの処に、美しい女子大生が近寄って来る。耀子はその女子大生こと、白瀬沼藺(ぬい)に声を掛けた。
沼藺(ぬい)ちゃん、ここの代金は向こうの沼藺(ぬい)の指導料で賄えるわよね」
「充分よ。でも、ここは私の奢りにさせてね。いいでしょう?」
「う~ん……。じゃ、2人の割り勘でどう? それで大盤振る舞いしようよ!」
「それ、いいわね!」
「で、早苗のことだけど、聞いてたよね?」
「うん、早苗ちゃんには悪いことしちゃったね。でも、早苗ちゃんの記憶を残すと、尋ねられた(みんな)も、段々それに気付いてしまうの。ご免ね……」
「え? 何のこと?」
 不思議がる早苗の額を、チョンと沼藺(ぬい)が人差し指で突ついた。

 その術は元々、彼女の母が早苗たちに掛けたもの。しかし、今の沼藺(ぬい)ならそれを解くのに何の雑作もない。早苗の脳裏へと、引き出す事の出来なくなっていた古い沼藺(ぬい)との記憶が、少しずつだが確実に蘇ってくる。

沼藺(ぬい)ちゃん……」
「ああ、早苗。沼藺(ぬい)ちゃんと、私たち3人でよくお茶したよね。今晩は再会を祝って、一杯やろうよ? いいでしょう?」
「勿論OK。でも……。
 これは耀子の言う通り狡いわ……。いくら女狐でも、この若さは無いんじゃない?」
「だろ?」
 少し困惑げの沼藺(ぬい)を前に、耀子と早苗はまた大笑いをした。

 広々とした宴会場を3人で貸し切り、豪華な食事と大盤振る舞いの酒で、高校時代の思い出話を、全て出し尽す予定の3人であったが、その準備が出来るまでの間、24時間いつでも入れる屋内の温泉で汗を流すことに相談が纏まる。
 因みに……、
 3人には知る由もないが、この屋内風呂は、遥か昔、鉄男とその愛人縫絵(ぬいえ)が愛を語らった場所。尚、政木の大刀自と有希が向こうの時空で入った露天風呂は、今は男の入浴客の時間となっていて、彼女らは残念ながら入れない。

 3人は並んで熱めの湯に浸かりながら、湯けむりでお互いの姿も霞む中、各々の近況を語り合った。
「へえ、鉄男君の娘さんも、随分と大きくなったんだね……」
「もう、有希は元気過ぎて、私なんかじゃ、もう全然敵わないわ」
「もう、そう云う年なんだね、みんな……」
「でも、沼藺(ぬい)ちゃんは、あんなジジイの兄貴でもいいらしいの。それで女狐らしく、密かにテツの奥さんを毒殺して、後釜に納まろうと狙っているのよ……」
「もう、耀子ちゃん、そんな訳ないでしょう! 後釜を狙ってても、毒殺なんかしないわよ!」
「ほう。後妻の件の方は否定しないんだ」
「それはそうよ。だって私の憧れの人だもん。狐は寿命が長いのよ。チャンスがあれば、いつかはね!」
「おやおや、夢のあるこって……。でも沼藺(ぬい)は若くて綺麗だからいいすよね~。耀子とあたしなんか、もう充分小母さんだし。そんな夢ないわよね~」
「早苗、一緒にしないでよ。私だって、メロメロに出来る若い医者の1人や2人くらい、ちゃんといるんだから……」
「なわきゃ、ないだろ?
 昔から耀子に聞きたかったんだ。何処を押すと、そんな根拠のない自信が生まれるのかってね……」
「え、そんなこと無いよ。耀子ちゃんは、私なんかより、ずっと綺麗で若い女性に化けられるんだよ」
沼藺(ぬい)が言うな~! 私らが言う分には小母さんの戯言で済むけど、沼藺(ぬい)が言うと嫌味にしか聞こえないぞ~。耀子がいくら化粧しても、若くなる訳ないじゃん!」
「そんなことないよ。耀子ちゃん、『変身』能力も身に着けたのよ。それに『魅了』の能力も身に着けているから、男の人なんか、幾らでも(たぶら)かし放題なのよ」
「あれは、テツが『思い出』の能力が奪えるかどうかを試したせい……。兄貴が能力を身に着けると、私にも勝手に能力が着いちゃうから、仕方がないのよ……。
 でも、既に美貌(びぼう)の私に、今更『変身』なんて無意味だし、況してや『魅了』なんて全く意味ないわね。
 まぁ『未来予知』が出来るってのだけは、確かに便利になったんだけどね……」
「はいはい。ま~、そう云うことにしておいてやろうか……」

 おかしな小母さん悪魔、藤沢耀子のサバトは、時の無い世界でまだまだ続く……。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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