ミメの伝説 偽りの伝説(4)
文字数 1,730文字
「ま、それは置いておいて……。ミメの存在がクローズアップされてきたのは、私の先々代、太陽のミメ、サニア・フィからです。
彼女は、それまで弓矢と剣でしか闘えなかった戦士ミメから、呪文と言う戦法を備えた魔法戦士のミメとして、冒険者の世界に颯爽と登場して来ました。
彼女の使った魔法が、今、私たちの習得している魔法の源流となっています。そしてこれは、サニアの友人の元剣士であり、後に『不涸の泉』と呼ばれた一人の魔法使いが発明したものなのでした。
因みに、引退後の彼の弟子には、私の師兄にあたる4大魔法使いがおり、水火風土の4元素を司る魔法の大家として、私たち後進の指導にあたっています。実際はプラズマ、気体、液体、固体の物質の4態なのですが、魔法の神秘主義嗜好の為か、古代の4元素論で分類されることを、彼らと彼ら以上にその弟子たちが好みました。私たちが使おうとしている『極光乱舞』や『黒炎破弾』は、実は師父ではなく師兄たちの創作なのです。
話がだいぶ逸れてしまいましたね。
師匠とサニアは2人で組んで、幾度となく冒険を繰り返しました。そして誰もが彼女こそ、次代のミコになると信じていたのです。しかし、結局、彼女もミメを辞めざる得なくなってしまいました……」
「死んだのですか?」
「いいえ……」
「では、不祥事でも起こしたのか?」
「それについては、クレリア……、私の姉の名ですけど、彼女の有名な逸話として伝わっています。
クレリアは、月のミメ、あるいは黒髪のミメとも呼ばれる、とても美しい女性です。彼女は常に私の憧れで、強く、気高く、そして誰よりも美しい女性でした。彼女は私の誇りです。彼女はいつも私に優しく接してくれていました。
私たちフィの一族は、皆、亜麻色と云っていい位の金髪で、私の髪ですら濃いめの方なのです。でも、クレリアは美しい黒髪でした。その理由は、彼女がフィの一族とは全く血の繋がりのない、拾われてきた赤ん坊だったからなのです。
私の両親はクレリアを拾ってきて、彼女に切ない思いをさせない様、彼女には実の娘の私より、優しく接する様にしていたそうです。ですから私は、ずっと私の方が、血の繋がりのない子供だと思っていました。ですが、それはクレリアにとっては、逆に辛いことだった様です。ですから、私を不憫と思って、姉は誰よりも優しく私に接してくれましたし、私や恩ある両親の為に、自らの命を投げ出すことばかりを考えていたそうです。
彼女はミメになることを望みました。
彼女の美しさがあれば、彼女がミメに選ばれることは当然のことなのですが、出生がネックになる危険性がありました。もし、そうなると、彼女以外となるのですが、その時、丁度いい少女は、フィの国に私しかいなかったのです。
彼女は、直ぐにでもミメになることを切望しました。私が幼くミメとしてはまだ子供過ぎるうちに。そして、私が結婚し、ミメの資格を失うまで、彼女はミメとしてその間は生き抜くことを心に誓っていたのです……」
「それで強引に、サニアというミメから、ミメを簒奪したのか?」
「ええ、その通りです。ですが、それは必ずしも、私たち姉妹だけの為ではありませんでした。実は、その時のサニアには悩みがありました。戦友である相棒の魔法使いが彼女に恋をしてしまい、彼女も彼を愛し始めていたのです。ミメは処女性を要求される存在です。ですから、この愛は成就する筈の無いものでした……。
それは、輝くばかりに明るい月の夜だったと云うことです。その悩んでいたサニアに向かって、クレリアは「サニアにはミメの資格がない」と訴えたのです。
『サニア、あなたは彼を愛している。
ミメとは処女たるべきもの。
それは肉体だけを指すものではなく、精神も含まれるもの。
ミメは万民を愛す必要の為、一人を愛してはならない。
それは、心のありかを示すのもの。
あなたは、もう資格を失っている。
あなたは、もうミメではない……』
サニアはミメの印とも云うべき、ミメの小太刀をクレリアに預けました。こうして、太陽のミメに変わり、黒髪の少女が新たなミメ、月のミメとなったのです」