有希の冒険 ヌルデ村の戦い(7)

文字数 1,638文字

 有希が敵本拠地広場に現れたのは、ウィシュヌ光臨教団が妖怪層に移層してから10分後のことだった。
 そこに出た時、有希はもう敵の配置に気が付いていた。敵のリーダーは1軒の家の中に、その家の前、広場の中心には同等の黒い脅威を持つ敵が1人。そして、有希を取り囲む様に、弱めの敵が14名森に潜んでいる。

 有希は、敵の脅威の強さや質は分かる。
 但し、叔母の耀子と違って、それが実際の相手になった時、どの程度の強さになるか? また、どんな性質の敵になるか? その判断は未だ付かない。
 それは、悪魔の能力の強弱の差と云うより、経験に基づいた熟練度の問題なのだ。有希にはその熟練が足りていない。
 当初、有希は敵を過剰に警戒し続けていた。しかし、実際に見て、それ程でもないことが分かると、今は少し、過小評価に傾いている。
 確かに、ここにいる連中は、ヌルデの村に攻め込んでいるハンターたちよりは脅威だ。だが、所詮は人間。有希が負ける筈がない。有希はそう信じていたし、強ちそれは誤りでもない。
 有希は父の能力を受け継いでいる。どんな武器で攻撃されようとも、条件反射的に皮膚が硬化し、自身が傷を受けることはない。そして叔母の能力も受け継いでいる。敵の位置、隠し持っている武器、不意打ちの攻撃、それらも全て手に取る様に分かる。そして自分の能力。近づきさえすれば、相手の考えている事……、具体的な戦術も、殆ど筒抜け状態になる。
 だが、この連中の脅威に対して、有希はもう少し警戒すべきであった。彼らは有希の具体的な能力を知らなくとも、悪魔の特質については概ね理解していたのである。

 さて……、この様な状況で、大悪魔は屡々会話を楽しむ。
 お互いがどう云う布陣を敷いたのか? 戦闘についてどう考えているのか? どちらが戦術的に勝ったのか? しかし、この軍団は、その様な敵同士のコミュニケーションを楽しむ趣味は無いらしい。彼らはすぐさま有希を抹殺するための作業に取り掛かった。

 彼らの中で、正八角形に位置するドルイド僧が、先ず広場と森の境界付近の地面に独鈷を挿し込む。但し、これは先程ヌルデの村に施した妖力を封じるものでなく、悪魔の魔力を封じる八角円の金属製の独鈷だった。
 そして、その8人を含めた全員が、森から現れて悪魔封じの結界の中に入って行き、有希を倒す為に彼女を取り囲んでいく。

 大体、結界と云うものに捉えられた者は、力を封じられてから、初めてそれに気が付くことが多い。
 真久良たちもそうであったし、有希も同じ轍を踏んだ。特に有希は、先程の結界が自分に無力であった為に、悪魔のことなど知らないだろうと、敵のことをかなり軽んじていた。その結果、有希は人間となった状態で、この怪しい武器を持った僧侶15人と闘う破目に陥ってしまったのである。

 彼らは長柄錫杖と云う棒で、有希に次々と襲い掛かってきた。本来なら、その様な物、有希には何の問題もないのだが、今、彼女は人間に戻っている。悪魔であった期間の遺産とも云うべき運動能力で、何とか素早くそれを(かわ)していったが、それでも数回彼女は背中や頭を殴られている。

 だが、やられてばかりの有希ではない。
 相手の行動にかなり動揺した有希であったが、直ぐに自分を取り戻し、その対策を実行に移した。
 結界の端に追いやられた時に、彼女は自分の腕に、カナフのポケットから取り出した金の腕輪を嵌めたのである。

 この結界は悪魔の能力を封じるもので、悪魔はこの結界からは自由に出ることが出来ない。それは結界の壁と内在する悪魔の能力が反発する為で、悪魔の能力のない人間は、その限りではないのだ。
 腕輪を嵌めた有希は、もう悪魔ではない。
 彼女は結界からあっさりと外へ出て、森の際に刺さっていた独鈷の一つを蹴り飛ばした。そして、嵌めた腕輪を再び外し、復讐に燃える残忍な目付きで、敵の集団を睨みつける。
 こうして、外した腕輪をカナフのポケットに戻した時、有希は再び完全な悪魔に戻っていたのである。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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