有希の冒険 覚醒(8)
文字数 1,429文字
実はそうではない。
有希の心の中のアルウェンは、実は有希が生まれた時から既に目覚めていた……。
実際、有希自身、潜在意識下でアルウェンを感じていたし、
では、有希の覚醒とは、一体何だったのであろうか?
恐らくではあるが……、
有希の覚醒とは、アルウェンの存在を認め、己の人格のひとつとして受け入れ、戦士として、またアルウェンの使徒として、己が使命を彼女自身、自覚することだったのではなかろうか?
そして、そうなったことをアルウェンの意思が認め、彼女が有希の前にその姿を明確に現すこと……。これが、有希の覚醒プロセスだったのではないだろうか……?
ま、いずれにしても、有希が覚醒したことだけは間違いないだろう……。
「有希さん、あなた方の勝利です。私たち妖怪層の住民は、宇宙人には味方せず、人間層への征服には加担しないこととします。
そして、いつか、人間との平和的な関係を気付くことが出来るよう、その日を待つことに致しましょう」
いつの間にか、政木の大刀自が闘技場に入っていて、形だけの侵攻計画の断念を有希に宣言していた。
しかし、当の有希は、激痛と全身麻痺で、
そんな中、心の中のアルウェンが有希に今後の指示を与える。
「有希。取り敢えず、ここに居る間は時間が経たないので、回復するまで待ちましょう。回復したら人間界に戻り、美菜さんに生気を分けて貰い、急いで私の召喚に応じるのです。もう時間が有りませんからね……」
「ママは本当に生きているのね?」
「ええ、勿論生きていますよ。
でも、私たちがファージに勝ったら……と云う条件付きですけどね……」
「良かった……。せめて、ママだけでも生きていてくれて」
有希は朦朧とする意識の中で、何が何だか分からないまま、再び意識を失った。
斯うして、妖怪層の闘いは終わった……。
新田美菜は、どうやら生きていてくれてるらしい。だがしかし、真の闘いはまだ始まってはいないのだ。
アルウェンの意識を心に宿した有希は、過去に渡って、これから最大の敵に挑まなければならない。自分の存在する太陽系の未来を賭けて……。
で、闘いの数時間後……、
政木家の布団で意識を取り戻した有希は、結局、誰も死んでいないと云うことを、彼女の看護にあたっていた政木家の狐女中から知らされる。
恐らく、この一連の狂言の作者は、1人でも仲間が死ぬことを、良しとはしなかったのであろう。
風花と
ただ、残念なことに、この事件を境に、有希が永遠に逢えなくなってしまう人物が1人だけいた。耀公主、月宮盈である……。
そして……、
それは、有希が妖怪層に旅立って2週間後にあたる日のことであった……。
神奈川県の片瀬海岸にある古びたマンションの一室で、1人の老女が孤独死しているのが発見される。
死亡した老女の名は月宮盈……。彼女が発見された時、その遺体は既に死後2週間以上が経過していたとのことであった。